源氏物語

源氏物語たより150

 ←源氏物語たより146 →源氏物語たより151
  急展開する物語  『桐壺』を読む その2

 冒頭の二行に、すでに風雲急を告げる種が仕込まれていた。
『はじめより我はと思ひあがり給へる御方々』
は、帝寵を得るのだと意気込んでいたのに、あにはからんや身分もさしたることのない桐壺更衣が帝の寵を受けてしまった。これで事が済むわけがない。
 

 そもそも女御・更衣として入内するについては、それぞれの家(後見、里)が必死になる。そこに華々しい情報合戦が繰り広げられていく。この状況なら、自分の娘こそ帝寵を受けられるだろう、などと読み切り、その期待を担って彼女らは入内する。
 後の『梅枝』の巻で、光源氏が、娘・明石姫君を入内させようと思っていると、
 『(身分の高い)人の御娘ども、きほひ(競争して)参らすべきことをこころざし思すなれど、このおとどの(源氏が、娘を東宮に入れようと)思し召しきざすさまの、いと殊なれば、「なかなかにて(中途半端に宮中で)や交じらはん」など、左のおとど、右の大将など思し止まる』
 源氏の娘が入内するのでは、とても勝負にならない。それでみな自分の娘の入内を諦めてしまうのである。
弘徽殿女御は、右大臣の娘として最初に入内した。当然自分への寵が厚くあるべきものと思っていたのに、思惑に反して、後から入内したはるかに身分の低い更衣が絶対的な帝寵に預かってしまったのだ。怒り、嫉妬するのは「ことはり」である。他の女御・更衣も思いは同じで、桐壺更衣に対する圧迫、いじめは峻烈を極めていく。
 そのために、桐壺更衣は、体を壊し、里がちになってしまう。ところが、身体を壊し里がちになればなるほど、帝の彼女に対するいとおしみは募っていく。そして帝寵はますます深くなる。それが、他の女御・更衣の恨みつらみを募らせていくのだ。悪循環である。「玉のような皇子」が生まれたが、それもまた彼女たちの嫉妬、怒り、疑いを煽るもの以外のなにものでもなかった。
 そして、桐壺更衣の死へと、物語は転がるように突き進んで行くのである。
母親の嘆き、帝の失意の描写の後、『藤壺宮』の登場、源氏の元服、源氏の藤壺宮思慕へと、足早に物語は走り込んでいく。まさに「間髪を入れ」ない急展開である。
 そして主人公・源氏へとバトンはタッチされていく。
 もともとこの巻は、源氏登場への橋渡しだから、「源氏へ、源氏へ」と先を急ぐのであるが、急いでいても筋立てはゆるぎなく用意周到で、矛盾もほころびもない。それゆえに読者はぐいぐい物語の世界に引き込まれていくのだ。
一転、『帚木』の巻になると、ゆったりとしたテンポになり、若者同士の冗長な「雨夜の品定め」が続いていく。源氏は、それらの話を『聞かぬやうにて』『うち寝ぶりて』聞いているのだが、それはまた『空蝉』『夕顔』の巻のめまぐるしい筋への状況構築でもあるのだ。
 緩急自在の紫式部の筆力に、読者は右往左往しながら、楽しませてもらう。それが源氏物語である。
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 郷愁
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏物語
  • 【源氏物語たより146】へ
  • 【源氏物語たより151】へ
 

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【源氏物語たより146】へ
  • 【源氏物語たより151】へ