スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←鯨談義 →源氏物語たより256
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 郷愁
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏物語
  • 【鯨談義】へ
  • 【源氏物語たより256】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
 

源氏物語

源氏物語たより255

 ←鯨談義 →源氏物語たより256
  男同士の語らいは  源氏物語たより255

 光源氏は葵上の喪に服していたが、とはいえやはりつれづれである。それを気の毒に思った頭中将は、しばしば源氏の部屋にやって来て、つれづれの慰めにしようと、世の中のあれやこれやを語って聞かせる。

 この日も例のようにやって来た。彼はまじめな話をするかと思うと、
 『例のみだりがはしきことも聞こえいでつつ慰め聞こえ給ふ』
のである。「みだりがはしきこと」とは、「好色なこと」ということ、つまり早い話が女の話である。「例の」とあるから、二人はいつも会いさえすれば、女の話に落ちて行ったのだろう。服喪中にもかかわらず不謹慎なと思うなかれ、若い男が二人寄れば、それはもう女の話に決まっているのだから。
 そして、二人に共通の女の話ということになれば、それはもう「例の女」のことである。もちろん「源典侍」である。彼女は二人の
 『うち笑ひ給ふくさはひにはなるめる』
のである。「くさはひ」とは「材料」という意味だから、「源典侍は二人の恰好の笑いのタネになるようである」ということだ。源典侍も随分虚仮にされたものである。
 でも、それも仕方のないことで、彼女は六十になんなんとする老女なのである。にもかかわらず、たとしえないほどの好色女ときているのだから、笑わずにいられないのだ。
 実は三年前の夏、二人はその好色女を争ったことがあるのだ。これは大いなる笑いの種になるに決まっている。源氏が彼女と閨を共にしているところに、頭中将が乗り込んできて「よくもおれの女を!」と、刀まで抜いての大立ち回りになったのである。そして、互いの帯や衣を奪い合って、二人は、にやにやしながら連れだって彼女の邸から帰って行ったのだから
 「いやもう、あんな面白かったことはないなあ!」
というわけである。なにか彼らの哄笑が聞こえて来るようである。でも、さすがに源氏は
 「あの祖母殿(おばおとど)の上を馬鹿にするものではない」
と頭中将に釘をさすのだが、釘をさしている源氏自身が「おばおとどの上」などと、笑い者にしているのだから始末に負えない。

 そのうちに、二人の話は、末摘花にまで飛んで行く。
 末摘花も二人が争った女だ。源典侍の時のような華やかな争いにはならなかったが、源氏が末摘花の所に忍んで行った時に、頭中将に見つかってしまったこともあった。あれは秋のことであった。また、十六夜の月の良く見える晩の逢瀬の翌朝、眠そうな顔を頭中将に見咎められたこともあった。
 このようにさまざまの好きごとどもを、互いに残る所なく話し合っているうちに

 『はてはては、あはれなる世を言ひ言ひて、うち泣きなど』
するのである。とうとう最後は二人して涙にむせぶのである。
 「秋」や「良き月」の話が、彼らに葵上の死を想起させたのだろう。そういえば葵上の死は、八月のことであった。そして、葬儀の夜は「八月二十日余りの有明」のこと。彼女は子供を産むやすぐに死んでしまった。わずか二十六歳という若さである。この死は、まことに「あはれ」なものであり、無常を実感さずにはおかない。
 哄笑から一転しての涙。若い男二人が「みだりがはしき」ことに大笑いしていたのに、その「果て果ては」涙にくれることになってしまった。
 そして、二人の間にはもう笑いが戻ることはなかった。
 次に頭中将が尋ねてきた時は、時雨の降るものあわれな暮れ方であった。ここには笑いの入る余地はないのだ。なぜなら源氏は
 『西のつまの勾欄に押しかかりて、霜枯れの前栽見給ふほど・・風荒らかに吹き、時雨さときたるほど、涙も争ふ心地』
して、頬杖を突きながらもの思いに沈んでいるのだから。そして、こう呟(つぶや)く。
 『雨となり雲とやなりけむ、今は知らず』
 (葵上は、雨となってしまったのか、雲となってしまったのか、今となってはぼうとして分からない。何と悲しいことであろうか)

 明から暗へ急転換する筋の運び。一部の無駄も隙もなく、男の笑いは男の涙へとなだれ込んでいく。
 源氏がつぶやいた「雨となり雲とやなりけむ 今は知らず」は、唐の詩人の、愛する人を失った時の詩の一節だが、ここに最も相応しい引用である。いや「風荒らかに、時雨さと降る」自然現象のここでしか使えない引用と言ってもいいかも知れない。
 紫式部の計算され尽くした文章構成は、「見事!」としか言いようがない。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 郷愁
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏物語
  • 【鯨談義】へ
  • 【源氏物語たより256】へ
 

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【鯨談義】へ
  • 【源氏物語たより256】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。