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郷愁

男の気持ち・女の気持ち

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   男の気持ち・女の気持ち

 南條範雄の短編『ただ一度、一度だけ』(『江戸の秘恋』徳間文庫)が面白い。あらすじを全部書いてしまっては作者に失礼になるが、あとの話が続かないから失礼を承知で書かせてもらう。こんな話だ。

 江戸の太物(ふともの)商の通い番頭・五介の家の離れに、元150石取りの塙武助という武士が住み込むことになった。この武助が飛び切りの男振り、それに礼儀正しく品もある、と、きては近所の娘や後家のあこがれの的になるのも当然だ。だれもが「機会があれば…」と願っている。
 五介の妻・おとしもその例外ではない。武助も、美しいおとしにその気があるようなないような。で、亭主の五介としては二人の仲が気がかりで仕方がない。
 その武助が、仕官かなっていよいよ大垣に去るという数日前、おとしに告白する。
 「お内儀、一生の思い出に私のものになってくれぬか。一度でよい」
 …「いやか、ただ一度でよい」
 ところが、二人が危うい関係になる寸前に、おとしの友達が様子を見にきてしまったり、五介が予定を早めて帰宅してしまったりで、ついに互いに結ばれぬまま、別れの日となる。
 
 別れて数日後の雪の日、江戸は大騒ぎになった。赤穂の浪士が吉良邸に討入ったのだ。五介の住む本所の通りを念願かなった浪士たちが引き上げていく。
 その浪士の中に、なんとあの武助がいるではないか。実は、塙武助こそ、だれあろう四十七士の一人、矢田五郎右衛門助武であった。
 「五介の家にいた塙さんだ。塙さんだ!」と本所は大騒ぎ。五介も我が家に寄宿していた人ということで、大得意。
 そして、武助との中を疑っていた五介は、おとしに盛んに聞き糾(ただ)す。
 「塙さんと何かあったろう?いつだ?」
 おとしは、下を向いたまま、そしてうなづいて言った。
 「いつって、3、4日前、一度だけ――ただ一度あっただけ」
 それを聞いた五介は、
 「相手は矢田五郎右衛門と云う名題の男じゃないか、近所のつまらぬ男と浮気した訳じゃない」
と、おとしを許してしまう。
 おとしはおとしで、偽りの情事を亭主ばかりでなく、みんなに大声でしゃべりたい衝動に駆られる。
 「ただ一度、一度だけだったけど」

 男というものはおかしなものだ。いや、女というものもおかしなものである。

 それでは、まず五介の心理からみてみよう。五介は一介の番頭。いわゆるさらりーまんだ。自分の家の離れには、若くて男っ振りのいい武士がいて、そして美しい自分の妻がいる。これではあらぬ妄想をするのが当然である。おとしの友達に監視もどきのことをさせたり、出張を一日早めて帰って来てみたり、右往左往である。
 この心理はどんな男にも共通のものだ。
 ところが、赤穂浪士の吉良邸討入りを境に、彼の心理はがらっと変わってしまう。
 まずは、自分の家に飛び切りの有名人が寄宿していたことを大いに自慢したくなるという心理であるが、これもごく普通の人間の心理だ。だから、ここまでは五介はごくありふれた男の一人と言っていい。 
 さて、それがゆえに妻の不倫をさえ許そうとする心理はどうであろうか。これも普通の心理といえるであろうか。もし真実こういうことが起こったら、男は、どこまで許せるかということである。いやいや、だれなら許せるかということで、たとえば、妻が、キムタクと関係をもったとか、ヨンさまと関係したとか…。
 私には経験がないから分からないが、ひょっとするとこれくらいの人物なら、許してしまうかも知れない。そして、「おれの女房はヨンさまと…」という心理になる可能性だってある。では、奥様方に人気の氷川きよしだったなら…。許せるかどうか微妙だ。安倍首相だったら…これは絶対許さない。おおかた誰でもそんなところだろう。
 もちろん“近所のつまらない男”では、余りに生々しすぎて、五介と同じように許しはしない。もっとも、おとしのように告白するなどということは稀なはずで、通常は「知らぬは亭主ばかりなり」という状態に置かれているのが、男というものだ。つまり、女房が浮気をしているかどうかなど判りはしないということ。
 五介の深層心理にまでは至らなかったが、概ね五介の言動は理解できる範囲といっていいだろう。

 さて、次におとしの心理についてをみてみよう。
 たとえ、相手がだれだろうと女は浮気をしてはいけない。いくら名題の矢田さんだからといっても、許されない行為だ。それにもかかわらず、それを夫に言ってしまったのは、なぜだろうか。
 ひとつは、亭主への誇りがあるだろう。つまり「あなたなど及びもつかない人と私はねんごろになったのよ」という心理だ。
 それに、亭主自身にも、「そうあってくれればいい」という態度がほの見える。こう条件がそろえば、「告白したくなる」という心理になってしまうのも無理はない。それに、おとしには本当は「不倫はしていない」という自信があるから、自分を責める必要はない。もし本当に塙さんと関係を持ったとしたら、いくらなんでも告白はしはすまい。
 おとしがみんなにも言いふらしたいという心理の方はよく分かる気がする。なにせ、相手は今話題の赤穂浪士なのだから。
 たとえ不倫問題でなくとも、多くの人のあこがれの的やものごとを、自分だけが“知っている”とか、“関係がある”などということは、人間にとってこのうえない甘い自慢だ。
 
 こんな小話がある。
 『 赤穂浪士の討入りの日、たまたま吉良邸に遊びに行っていた中間がいた。翌朝、その中間が体中に傷をつくって屋敷に帰ってきた。目ざとく見つけた仲間の中間が、彼に聞いた。
 「どうしたんだ。その傷は?」
すると彼は得意になって言った。
 「おお、これか。これは、昨夜赤穂浪士の討入りの時に吉良様の家に行っていた時につくった傷よ。」
 「へえ!てえした時に行っていたものだ。それにしてもすごい傷だな。そんな危ないところにいないで、縁の下にでも隠れていればよかったのに。」
 「それがな、お前。縁の下に隠れようとしたら、すでに縁の下は吉良様のご家来でいっぱいよ。仕方なしに、高い塀によじのぼって、やっと逃げてきたらこの傷ってわけだ』
 歴史的な現場に居合わせたのだという優越感が、不名誉な怪我も門限やぶりも夜遊びもものかわ、得々としゃべらせいている。「おれだけが」とか「私だけが」という心理は、誰にでもあるものだ。

 ただ、女は政治的なことには案外無関心なもので、おとしの心理はもっと単純なものであったはずだ。要するに、隣り近所の娘や後家のあこがれの的であった「お方」と、自分だけが関係をもてたという優越感である。そういう意味では、おとしは、ミーハー的であり一般的である。

 ところで、不倫とは、「道徳的でないこと、人の道に外れたこと」で、男女にかかわりなく使われる。一般的には「許されない行為」なのだろうが、“人の道に外れたこと”など誰でも多かれ少なかれやっている。だから、それほど恥ずべき行為ではないのだ。特に男の場合は、「不倫をしている」などというと、男冥利みたいな心理が働く。
 一方、「不貞」という言葉もある。不倫とどう違うか。「不貞」とは、「夫婦間の操を守らないこと」で、概ね女の行動に対して言う言葉である。では、「みさお」とはなにか。「身を固く守ること」である。だから、それを破ることは、不倫よりも罪は重いのである(?)。

 さて、おとしの場合は、不倫であろうか、不貞であろうか。
 いずれにしても、人には言わない方がいい。いくら気を許した友達でも、あなたにだけよ、誰にも言わないでよ」などと言っても、「あなただけ」にとどまったためしはないのだから。近所の連中も、当初こそ
 「あんなすてきな人と不倫ができて、おとしさん、いいわね」
などと言うだろうが、いずれ
 「あの人、不貞を働いたのよ」
と変化していく。その時になって、「いや、実はなにもなかったのよ」と弁明しても、だれも信じてはくれない。
 まして、亭主には言うべきでない。最初は「あんな有名人と…おれの女房もたいしたものだ、」などと熱に浮かされているだろうが、熱が冷めればどう豹変するか分かったものではない。男は勝手なのだ。
 まあ、そんなわけで、たとえ“一度だけ”でも「あの人と間違いをしました」などとは、金輪際言わない方がいいのである。
 それに、そもそも言ってしまっては、忍ぶ恋の密の味は味わえなくなる。だれにも知られていないからこそ、“密”会なのである。
 
 おとしは、南條範雄におどらされ、はめられてしまった。言わずもがなのことまで言ってしまった。小説家とは怖いものだ。
 最後に、南條範雄にお詫びがわりに付け足す。
 小説のてん末を全部書いてしまったが、あくまでもあれは粗筋であって、おとしの微妙な心の揺れや五介の右往左往や、なんとないユーモアは読まないと分からない。ぜひ読まれることをお勧めする。



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