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源氏物語

源氏物語たより147

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   源氏物語 終末の怪 源氏物語たより137 【訂正 整形】

 源氏物語の終末はあまりにもあっけない。「え!これで終わりなの?」と思って、思わず次のページをめくってしまうほどである。あたかも見ていた映画が突然止まってしまったような気持ちである。「停電だろうか?フイルムが切れてしまったのだろうか?」しかしこのフイルムはこれ以上二度と回らないのである。
 五十四帖にわたり、八十年近くに及ぶ壮大なドラマが、こんなにあっけない終わり方でいいのだろうか、ということで、古来「源氏物語は未完の作品である」とか「いやこれで十分完結しているのだ」とか、さまざまな憶測や意見を巻き起こし、中には、『夢の浮橋』の続編を手掛けた人まであるという。
 『幻』の巻でも、波乱万丈の生を送った稀代の男・光源氏の最期にしては、あまりにそっけないものであった。彼は本当に出家したのだろうか、彼はいつ死んだのだろうか、など、すべてが闇の中で、源氏の生涯はとじられてしまう。この場面でもやはりさまざまな憶測を呼び、本居宣長などは、『雲隠』の巻を自ら創作したという。

 私は、あれはあれで十分完結していると思っているから、何の疑惑も持ってはいないのだが、源氏物語の最終章『夢の浮橋』だけは、読み終わった今も釈然としない思いが残っている。まさに「幻」の如しである。

 では、『夢の浮橋』はどんな幕切れになっているのだろうか。
 薫、匂宮という二人の貴公子の愛の間で悩み抜いた浮舟は、男・女の関係を清算しようと宇治川に身を投げる。だが、比叡山の山懐・小野に住む尼上一行に助けられ、その小野に身を寄せることになった。再び俗世に戻ることを厭った浮舟は、尼上の兄・横川の僧都の導きによって出家してしまう。
 生存していることを知った薫は、浮舟の弟・小君を小野に遣り、彼女に消息を届ける。しかし浮舟はその消息を見ようともせず、
 『ところ違ひにもあらむに、いとかたはら痛かるべし』
と突き返すのである。「手紙が人違いだと、困るでしょうから」と言うのだ。
 姉に会うこともできずに、また消息すら渡すこともできずに、自分の帰りを持ちわびているであろう薫のところに小君は戻るしかなかった。何のために小君を遣いに出したのか面白くもなく不快な思いの薫は、浮舟のとった行為に対してあれこれ考え回す。
 『「人の隠しすえたるにやあらむ」と、我が御心の思ひ寄らぬ隈なく、落とし置き給へりし習ひに、とぞ』
 (あらゆる場合を考慮して、かつてご自分が浮舟を宇治に隠しておいた経験(習ひ)から、誰かがどこかに、浮舟を隠して住まわせているのだろう。・・ということだそうだ)
 これが壮大なドラマの幕切れなのである。
 この後、薫は浮舟を尋ねるのだろうか、そして元のさやに納まるのだろうか、匂宮はどうするのだろうか、もしこれらの男と関係が戻らない時には、彼女の出家生活はどのようなものになるのだろうか。また、浮舟があれほど心配していた母親とは、果たして会うのだろうか会わないのだろうか、などなど問題は山積したままドラマは閉じる。

 薫は、恐らく小野を尋ねるであろう。しかし、浮舟は決して会おうとはしまい。
 それにしても薫の認識は甘すぎる。「誰かが隠しているのだろう」とは、あまりにレベルの低い認識である。彼は、浮舟の悩みの深さや深刻さにまるで気が付いていないのだ。浮舟との乖離(かいり)のなんと激しいことか。だから彼女ののっぴきならない出家の真剣さなど理解できるはずはない。こんな男とよりを戻したとしても、また同じ闇夜を歩くだけで、話(物語)にもならない。
 一方、匂宮は、この段階で浮舟の生存の情報を得ていない。しかしたとえ生存を知ったとしても、彼が小野に行くことはあるまい。なぜなら、浮舟の「四十九日」が過ぎるころには、
 『あだなる心は慰むや、など心み給ふこともやうやうありけり』
という状況なのだから。なにしろ匂宮は、「浮舟を失った悲しみなど、他の女と関係でも持つようになれば、慰められてしまうことだろうと、懸想を試みるような婀娜っぽい男」なのである。「やうやう(だんだん)」と言う表現が印象的である。とにかくのど元過ぎれば、すぐにも別の女に走る男なのである。

 さて、それでは母親とはどうなるのだろうか。どんな人間でも母親との関係は切れるものではないのだから。まして浮舟は、今までも母親と強い絆で結ばれてきた。だから会うであろうことは間違いのないことなのだが、ただ、だからといって彼女の出家が覆されることはないはずだ。それほどに彼女の出家の意志は堅固なのである。
 しかし、私は、この「母と子」の問題について、並々ならない恐れ多い考えを持っているのだ。結論から言えば
 『源氏物語は、母性への回帰の物語である』
ということである。つまりこのことで物語は貫かれているということである。

 宇治川のほとり、宇治院の大木のもとで浮舟を発見したのは、尼上たちの一行である。小野に住む尼上一行がなぜに宇治などにいたのか。実は、尼上は、母親の初瀬礼参に同伴し、その帰りだったのである。尼上は、娘を亡くしていた。危篤の浮舟を見るにつけ
 『ただわが恋ひ悲しむ娘の、帰へりおはしたるなめり』
と喜び、「わが娘を得た」ような気になり、長谷観音の功徳に感謝し、浮舟を真実手厚く看護するのである。
 これは一体何を意味しているであろうか。おそらくそれは、浮舟とその母親とをオーバーラップさせているのだと思う。したがって、これは彼女が母親と会うであろうことを暗示しているということになるのだ。
 『手習』の巻で、彼女の心を終始占拠していたのは、母親の面影である。出家に際しても、横川の僧都から「親の方に向かって拝みなさい」と指図されると、
 『え忍びあへ給はで、泣き給ひにける』
のである。母に知らせることもなく、この世を離れることの申し訳なさである。薫や匂宮やその他の世俗の恩愛はすべて断ち切ることができても、親の、特に「母」への恩愛はそう簡単に断ち切れるものではない。『手習』の巻は、出家することには何の未練もない、いやむしろ確固たる決意ができているのだが、母への思いばかりは容易には切り難いことを主題にしているものと思えるのである。
 
 そして、この浮舟の『母への回帰』は、源氏物語の最初の巻『桐壷』に戻って行っているのだ。それはどういうことであろうか。
 光源氏は、物心もつかない三歳の時に母を亡くしている。母の面影を求めて、藤壺宮を恋い慕い、そして許されざる義母との不倫を犯してしまう。
 さらに彼は、藤壺宮の面影(実は母の面影)を色濃く湛えている紫上を求め、強引に手に入れる。そして、これを終生の女性として愛し続けていくのだ。紫上には母の面影が揺曳(ようえい)していたということである。
 最初こそ源氏が主導して、彼女を理想的な女性に育てていくのだが、やがては彼女なしではいられなくなる。つまり、いつか紫上は、源氏の母親的存在になっていたのだ。源氏が、いかに華やかな女性遍歴をしても、結局は紫上のところに回帰していくのである。彼は、地球(母)の周りをを回る月のようなものであった。
 だから、紫上が亡くなった途端に、彼は帰るべき所を失ってしまったのだ。彼女を亡くした後の一年間は、彼は、「空蝉症候群」に陥っていた。今考えれば、紫上がいくら出家を願い出ても決して許そうとはしなかったのは、母を失いたくない一念だったのである。

 もう一つの母子関係を上げよう。
 明石君が、愛する娘を手元から離し、紫上に預けてひたすら忍従の生活を送ったのは、やがて後宮に入るであろうわが娘を、源氏の母(桐壷更衣)のようにしたくなかったからだ。明石君は、受領階級の出身である。母が受領の娘では、桐壷更衣と同じ運命を辿るしかない。娘が悲惨な目に合うのは自明のことである。彼女は、娘の出世を願っているとともに、ひたすら娘の安穏を願って忍従の時を送っていたのだ。

 源氏物語には、繰り返し繰り返し、『後撰和歌集』の次の歌が引用されている。
 『人の親の心は闇にあらねども 子を思ふ道に惑ひぬるかな』
 源氏物語には、この「親と子」の思想が流れているのだ。
 つまり、『夢の浮橋』の不可解な結末は、この思想で『桐壺』の巻に回帰してきたということで、まさに「三界流転」である。こう見てきたときに、あれ以外、後に何を付け加える必要があろうか。見事な結末だと言うしかないのである。

 ここでは、主な根拠しか上げることはできなかったが、「母性への回帰」こそ源氏物語を貫いている主題の一つであることに間違いはない。
 このことは、これからも私が源氏物語を読んでいく上での大きな課題になって行くはずである。


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