郷愁

ウグイスカグラ

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   ウグイスカグラ 異聞

 春まだき山林にいち早く葉を展開するのがマユミである。枯れ枯れの雑木林の中に瑞々しい若葉が目に付いたら、それはマユミの木だと思って間違いない。この木は昔弓を作ったところから名づけられたもので、そのためか枝は軟らかく弾力性がある。

 そして、このマユミに遅れじと小さな葉を開くのがウグイスカグラである。この木の面白いところは、葉が開くか否かに、もう淡紅色の可愛い花を垂れるというところである。この花は、初夏には艶々とした真っ赤な実を実らせる。子供の頃よく「グミ、グミ」といって食べたものである。しかし、いわゆるグミであるナツグミやアキグミは、実も大ぶりで美味しいのだが、ウグイスカグラの実は小さくそれほどに美味しいものではない。それでも子供の頃の野遊びに、ちょいと摘まんでは口に放り込むには格好の食べ物であった。あの頃はなんという名の木であるのかも知らずに、真っ赤な粒々を口に放り込んではぷチュと食べていた。

 この木の名前がウグイスカグラだと知ったのは、ごく最近のことである。しかも当初は“ウグイスカズラ”と覚えてしまって、人にもそう教えてあげた。それにしても、テイカカズラやサネカズラのように蔓性の樹木でもないのに“カズラ”とはおかしいとは思っていた。もっともガマズミやハコネウツギのように蔓性でもないごく普通の樹木でもスイカズラ科になっている・・、植物の名は、もともとどれも理に合わないおかしな名が付けられているのだからと、深く考えもしなかった。
 ある時、県立公園を歩いていたら、この木に“ウグイスカグラ”と名札がついているのを見て驚いた。
 「あれ、これ、間違っている。」
と大発見をしたように奮い立った。ところが、他のところにも“ウグイスカグラ”という名札が下がっている。まさか県立公園ともあろうものが正々堂々と間違った名札を掛けるはずがない。家に帰って図鑑を繰ってみた。やはり私の間違いであった。

 それにしても“ウグイスカグラ”とは奇妙な名である。漢字では“鴬神楽”と書く。
 なぜこの木がウグイスや神楽と関係があるのだろう。『樹木図鑑』(日本文芸社)には
 「小鳥を捕らえる“狩り座”が訛ったものという説がある」
とあるが、それはとても無理である。『日本の樹木』(学習研究社)には
 「小枝が細かくウグイスが隠れるのによい樹形であるからという説がある」
とあり、『広辞苑』には
 「古名ウグイスガクレが転訛したという」
とある。『日本の樹木』と『広辞苑』がいうように、確かに細かい枝がところせく茂るのでウグイスが隠れるには適した樹木ではある。しかしこのような潅木に隠れる鳥はウグイスだけとは言えない。アオジやホオジロなども好んで居場所とする。それに “かくれ”が“かぐら”に訛ったといっても、“く”が“ぐ”に、“れ”が“ら”に二つも変化してしまったというのには無理がある。なにかもっと別の意味があるのではなかろうか。

 やはり、『神楽』そのものに注目しなければならないだろう。『神楽』は、もちろん神社の祭事などで行われる歌舞のことである。『広辞苑』を見ていたら、“神楽鈴”というのがあった。ひょっとすると、これに関係するのかもしれない。神楽鈴とは、里神楽を舞う時に手にする鈴のことで、鈴を12個または15個結んで柄をつけたものだという。
 ウグイスカグラは、花にしても実にしても、枝に鈴なりに垂れ下がるではないか。あれが神楽鈴を連想させたに違いない。それに、幹を林立させ枝を煩雑なほどに茂らせるウグイスカグラは、素朴で賑やかな神楽囃子を連想させる。

 ウグイスは、晩冬、初春の時季はまだ野暮ったい藪鳴きである。体色だってメジロの鮮やかな緑には遠く及ばず、鈍く地味な色だ。ウグイスはこの木に隠れるのではなく、藪鳴きするにはこの煩雑なほどの茂みがお似合いだということだ。
『梅にウグイス』という。美声のウグイスにお似合いの花は梅、ということでできたことわざであろうが、現実はそうではない。そもそも梅にはメジロは良くやって来るものの、ウグイスがやって来て鳴いている姿は見たことがない。『早春賦』も
  春は名のみの 風の寒さや
  谷の鴬 歌は思えど
  時にあらずと 声も立てず
  時にあらずと 声のたてず
と歌う。梅の時季、ウグイスは、まだ「ジュ、ジュ」と野暮ったく藪を渡り歩いている。とてもあてやかな梅どころではない。人はウグイスの美声に惑わされて、なんでも美化してしまうのだが、煩雑で賑やかなウグイスカグラこそウグイスに相応しい。
それでも、淡紅色のウグイスカグラの花は、初夏には艶々と冴えた真っ赤な実になって、神楽鈴がころころと響くように垂れ下がる。ウグイスも藪鳴きから「ホー、ホケキョ」と美しく鳴きだす。
 ウグイスカグラの実のように、冴えた声で鈴を転がすように、今年も鳴いて欲しいという人々の願望が,ウグイスとウグイスカグラを混沌と結び付けた。


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