郷愁

なんでも鑑定団の悲喜こもごも

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   なんでも鑑定団の悲喜こもごも

 テレビ東京の『なんでも鑑定団』が好きで、よく見る。特に「出張鑑定」が面白い。各地を回わって鑑定するのだが、その地のいわくありげな人が登場して来て、「我が宝こそは!」と、意気込んで鑑定をしてもらう。思惑外れですっかり落ち込んでしまってすごすごと降壇していく人がいる一方、思わぬ値が付いて有頂天になって飛び跳ねている人がいたりして、その悲喜交々(こもごも)が楽しい。
 鑑定士もそれぞれさすがにプロで、説明が分かりやすいし、また偽造と鑑定されてすっかりしょげかえっている人にも優しい声かけを忘れない。
 「でもね、それはそれなりに価値があるのですから、大事になさってください」

 偽造者(にせものづくり)は、いかに本物に似せて作るかが彼らの命なのだから、素人がだまされても当然のことで、「だまされた!」といって嘆く方が間違っているわけだが、なかなかそう簡単には割り切れるものではない。ひどい落ち込み方で「この人大丈夫かしら?」と思わせるほど落胆している者もいる。
 南州の書などはほとんど偽物という。それはそうだろう。幕末・維新をあれほど忙しく駆け回り、嵐のように散っていった人だから、彼の書画が巷にあふれるほど存在するはずはない。それに、薩摩の一郷士にすぎなかった西郷隆盛が、どこで書など習ったというのだろうか、それほどの教養を身に付けていた人物とは思えないのに、書の大家のように扱われている。それ自体不思議なことだ。

 沢田ふじ子の小説であったろうか、雪舟などの古書画の一枚の絵を細工して、二枚の絵に仕立ててしまう離れ業のような技術を持つ職人までいる、という話があった。このような場合は、“贋作”と言うべきなのであろうか、あるいは、二枚とも本物と言うべきなのであろうか。「だまされた」という範疇には入らないかもしれない。
 まことに複雑にして怪奇なのが「骨董の世界」なのだ。

 熱海のMOA美術館にレンブラントの「男の胸部像」がある。レンブラントにも偽物が多いという。MOAのこの作品も一時「偽物扱い」されていた。
 「なぜこれが偽物なの?」
と私は、不思議でならなかった。実に見事な作品である。パリには偽物づくりに一生を懸ける人物がいるという。
 また、コローのような場合もある。彼は弟子の作品に少しばかり手を入れて自分のサインをし、それを売りに出させたという。コローは優しい「コローおじさん」だったので、弟子の苦境を見ていられなかったのだ。当時コローは著名な画家になっていたので自分の署名があれば高く売れたのだ。
 私は、コローが好きで、特に風景画に人物の点景のある作品など、ほれぼれと見てしまう。でも、時に「手抜きじゃないの」と思われる作品に出合うこともないではない。それらが、ひょっとすると彼の愛する弟子の作品なのかも知れない。
 平塚美術館で特別展が催された時に、100号はあろうかという大きなベラスケスの絵が展示されていた。私は、この作品の前に立った途端に、「なにかおかしい」と感じた。どう見てもベラスケスのものではないな、と直感が働いたのだ。
 すると、大勢の学生を引き連れた先生がやってきた。どうやら美術学校の先生で、学生たちに作品の解説をして回っているらしい。彼は、この作品の前に学生たちを立たせて言った。
 「このベラスケスの作品は偽物という話もあって…」
  私は、自分の直感の鋭さと鑑識眼に感動してしまった。

 『なんでも鑑定団』でも、案外よく真贋を見極める。絵画だけでなく、陶器や工芸品でも、8割くらいの正解率と言っていいだろう。
 私が、鑑定の基準にしているのは、
 「作品の持つ生命の輝き」
である。つまり、その作品が見る者の心に強く「訴えてくる力」を持っているかどうかということである。ブラウン管を通してもその命の輝きは伝わってくるものだ。著名な作家の作品は、やはりそういう不思議な力を持っている。
 逆に、「へなへな」としていて生命感のない作品はまず偽物である。
 ところが、横浜の大骨董市で4000年前の良渚文化の「玉」だと言うのを買った時のことである。これが見事な偽物であった。中国骨董などは99、9%は偽物だという。揚子江のある所には偽物作りの村があるという。でも、負け惜しみではないが、この玉には訴える力がこもっていたのだ。だから未だに良いものだと思って居間に飾ってある。ある時、骨董にはなかなかの目利きの人が我が家にやって来て、この「玉」を見るや「なかなか良い!」と盛んに感心していた。
 いずれにしても本人が気に入ったものが本物なのだろうと思って、「大事になさっている」。



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