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源氏物語

源氏物語たより282

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   明石尼君の論理  源氏物語たより282

 明石君にとっては誠に辛い決断を迫られる時期がきてしまった。辛い決断とは、娘(明石姫君)を手放すべきか否かということである。
 明石君は、光源氏の再三の上京の催促にもかかわらず、それを引き延ばしてきた。
 彼女の思いには二つあった。一つは、たとえ上京したとしても田舎育ちの自分では、高貴な人々に混じって生活できる自信が持てなかったことである。そしてもう一つが、上京すれば自分の娘を手放さなければならない状況になるであろうという心配である。
 
 源氏は、明石君との間に女の子が生まれたことを大層喜んだ。葵上との間に生まれた夕霧については、彼はさほど喜びはしなかったし、その後の夕霧の扱い方にも、何か「すくすくし(そっけない)」いところがあった。横浜市大で源氏物語の講義を受けている時に、ある受講生がこんな質問をした。
 「太政大臣でもある光源氏は、息子・夕霧を大学になど入れるという必要はなかったのではないか。源氏の夕霧に対する態度には何か冷たいものを感じるのだが、それはどうしてなのでしょうか」
すると講師はこう言い放った。
 「葵上が嫌いだったからでしょう」
 確かにそれもあるかもしれないが、源氏にとっては、「男の子」には何の価値も見出せなかったからだろうと私には思えた。男の子では、所詮将来太政大臣に昇るのが関の山である。つまり、男の子ではどうあがいても「天皇」にはなれないということである。それが夕霧に対して「すくすくし」い扱いになったのではなかろうか。
 ところが、明石君との間の子は「女」であった。源氏が小躍りしたのは、女の子ならやがては女御として入内させることができるからだ。そして天皇との間に子供ができれば、その子が東宮となり天皇になるチャンスが生まれる。
 光源氏のことを「天皇になれなかった皇子」と表現する人がいる。源氏が天皇になりたいと思っていたかどうかは、物語上では明らかではないが、いずれにしてもそれは無理な話である。ところが、自分の娘が天皇を生むということは十分可能なことである。
 自分の孫が天皇になるのだから、源氏にとっては、女の子はまさに「奇貨おくべし」の存在であった。
 源氏は、明石君が女の子を産んだことに狂喜し、優秀な乳母をわざわざ京から明石に派遣した。将来の「后がね」が明石生まれの明石育ちでは誠に心もとないからだ。できる限り早い段階から「お妃教育」を施す必要があったのだ。明石君に何度も上京を促したのもそのためである。

 結局、彼女が上京したのは、姫君が三歳になった時である。しかも、彼女はすぐに源氏の元に行くことはしなかった。娘(明石君)の心情を忖度(そんたく)したのだろう、父の明石入道は大井川(嵐山近辺)のほとりの邸を修理し、そこに明石君親子を住まわせることにした。
 しかし結局は、源氏から姫君を手放し、紫上に預けて育てるよう伝えられることになった。源氏の申し出を聞いた彼女は
 『いとど胸つぶれぬ』
ほどであった。そこで心の内を源氏にこう伝える。
 「いかに高貴な人(紫上)に育てられたとしても、実の親(明石君)が受領階級の娘であることに変わりはないでしょう」
 彼女は、理性では確かに「この子の将来を考えれば源氏さまの言うとおりにすべきであろう」とは思うのだが、一方では「いったん娘が自分の手から離れてしまえば、めったに逢うこともできまい。そうなれば自分のつれづれを慰める手立てなど全くなくなってしまうのだ」などと
 『さまざまに思ひ乱るるにも、身の憂きこと限りなし』
という錯乱状態に陥ってしまう。

 この時、娘の惑乱を見ていた明石尼上は、次のように段階を踏んで娘を諭す。
  ① 確かに娘を手放すことは辛かろうが、源氏さまに預けることが最後には娘にとって最良のことになるのだと、     きっぱり思い切ることです。くだらない悩みごとをしているのではありません。
  ② ひたすら源氏さまと紫上さまを頼りにすることです。
  ③ そもそも源氏さまを見てごらんなさい。源氏さまは、母親が更衣という身分であったがために、あんなに立派な    方にもかかわらず臣下の身に落とされるしかなれなかったのです。
  ④ ましてあなたのようなただ人の娘では、子供の将来はいかんともしがたいものがあります。
  ⑤ また、たとえ親王・大臣の娘だと言っても、生活面で不如意であったとすれば勝負になりません。経済的な支え    があってこそ子供の将来もあるのです。
  ⑥ もし源氏さまに別にお子さまでもお生まれになってごらんなさい、明石姫君などはすぐに忘れられてしまうこと    でしょう。
  ⑦ 娘の身分、身分によって親(源氏)からも大切にされるのだし、人さまからも侮られないで済むようになるもの    なのです。
  ⑧ こんな大井の山里に育ったのでは、姫君に何の栄えがあるというのですか。源氏さまにお任せし、高貴な紫上さ    まに預けるのが第一なのです。

 この尼君の祖父は中務宮で、ひとかどの出身であった。また、夫の明石入道も「近衛中将」という将来ある人物であった。ただ入道は持ち前の偏屈さから、中央政界の権勢を捨てて、播磨の受領で終わってしまったのだが、尼上は、由緒ある生まれ育ちを持していた。それが、彼女が世の中の状況を正確に押さえ、諄諄乎として娘を説得できるもとになったのだ。尼君の論理は並みのものではない。
 夫を明石に残して娘とともに上京したのも、孫(姫宮)を通して、何とか自分や夫が失った栄光を回復したいという堅固な信念が持っていたからであろう。彼女の一念が、冷静は判断と気骨を呼び、気弱になっている娘に喝を入れることになった。

 こうして、明石姫君は紫上に預けられることになった。
 そして、万全なるお妃教育を受け、やがて東宮に入内し皇子をもうけ、この皇子が東宮となるのである。尼君の一念と冷静な論理が明石一族に繁栄をもたらすことになるのであるが、それはずっと先のことである。



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