郷愁

男の下半身

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   男の下半身

 だいぶ前のことであるが、あるテレビドラマにこんなセリフがあった。
 『男の下半身に人格はないのだから』
 けだし名言である。
 私も、下半身についてだけは自信がない。普段は犬も食わない真面目な顔で、人格高潔を装っているが、こと下半身のこととなると「高潔」どころではない、むしろ「高血」と言った方がよい。時と場合によっては何をするか分からない。相当の抑止力を発揮しないと、この面で“高血”の暴発の危険性なしとしない。
 ある会合で、携帯電話の普及による事件が絶えず、主婦や少女が大勢犠牲になっているという話が出た。出会い系サイトはテレホンクラブなどよりも安易で、いとも簡単に男女の出会いが成立する。そして、このシステムを悪用し、弱き立場のものを食い物にする事件が絶えないが、罪を犯すのはみな男だ。まさに「男の下半身に人格はない」ことを証明していると言っていい。
 ただ、ここには男の下半身が犯す単純ないわゆる性非行と、男の上半身つまり頭(知能)が犯す犯罪とがあり、両者は質が違うということを考慮しなくてはいけない。罪の深さから言えば、後者の方がよほど深い。なぜなら、そういう罪を犯す男は意図的計画的判断に基づいて行うもので、あの桃太郎侍に言わせれば、
 『一つ、人の世生き血を吸い、二つ、ふらちな悪行三昧、三つ、醜い浮世の鬼』
のような悪鬼であるからだ。

 こういう悪そのものを商売にするような男は除いて、ここでは前者の一般の男の話に限定しよう。
 たとえば、携帯電話で見ず知らずの女を呼び出し、ホテルにでも行ってそれなりのことをするという場合を考えてみると、これは悪と言えば悪だが、女に乱暴したのでもなく、合意の上でということになれば、罪と言えるのかどうか難しい。女の方にも男の下半身に期待し、お金でも稼ごうという下心があるかもしれないからだ。それに一時のアバンチュ-ルを楽しみたいという思いもあるかもしれない。とすると、もう男の下半身だけに責任をかぶせていいかどうかは簡単には片付けられない。しかし、いずれにしても、ずいぶん高い報酬を払い、不名誉な行為と知りつつ、そうしなくてはいられたくなるというのは、男の下半身に問題があるからと言わなければならない。それがiモ-ドをはやらせていると言っても過言ではなかろう。

  新聞に高校の教師が、本屋で女子校生のスカ-トの下を手鏡で覗き逮捕されたという事件が載っていた。では、これなどはどう考えたらいいのだろう。悪と言えば悪だが、相手が大変な傷を負ったわけでもないから、たいした問題ではない。しかし、手鏡を持っていたということは、意図的計画的であるし、常習犯の可能性がある。これでは悪の烙印を押されても仕方がないだろう。
 この教師は49歳、当然それなりの常識もあり、判断もできるはずの歳なのに、何を血迷ってしまったのか、まことに恥ずべき不名誉な犯罪を起こしてしまった。家族の思いはいかばかりか計り知れない。それに、懲戒免職もありうるから、家庭の離散ともなりかねない。それが分かっていて犯してしまうところに、『男の下半身』の避けがたい宿業がある。
 ただ、私に理解できないのは、スカ-トの下を手鏡で覗くことがどうして性の満足につながるのかということだ。妙な下半身の趣味もあるものだ。
 私には、幸せなことに覗きや下着泥棒の嗜好はない。また、iモ-ドで少女を呼び出しけしてからぬことをしてみたいなど思ったこともない。そもそも、文学の話もできず芸術の話もさっぱりというような相手では、間が持たないこと甚だしいのではなかろうか。それに少なくともそこに若干でも“愛”とか“好き”とかの情が介在していなければ、付き合っていても張り合いや喜びがないのではないか。

  私は、美人で上品で爽やかで理知的な感じの女には極めて弱い。特に、山本周五郎の作品の『控えめでいて、どことなく折り目正しく、凛とした挙措』を取るような女の人にでも出会ったら、もう“愛”も“好き”も“四の五の”もしない。ひたすら燃え上がり、身を滅ぼすこともいとわないだろう。ただ、残念ながら、今までそういう女との出会いが(あまり)なかっただけの話で、チャンスさえあれば、どうなるか保証は出来ない。

 それにしても、どうやら私ほど美人に弱い男はないようで、電車の中などで、私のようにキョロキョロしている男は見かけない。
 だから、いつの日か、けしからぬ性の罪を犯してしまうのではないかという不安をいつも抱えている。ただもうこの歳になってしまうとその意欲も頼りないものになってしまっているのだが、それでも電車の中のきょろきょろは相変わらずだ。これも手鏡を使った男教師と変わらないのかもしれない。「鏡」で見るか「眼」で見るかの違いだけだ。やはりドラマのセリフ『男の下半身に人格はない』は言い得て妙である。


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