源氏物語

源氏物語たより300

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   光源氏の継母・継子論 『若菜』⑭ 源氏物語たより300

 東宮との間に皇子をもうけた明石女御に、光源氏は、継母は継子に対してどういう態度を取るべきか、またその逆の場合はどうあるべきかを懇々と説き聞かせる。

 その内容に入る前に、当時の継母・継子はどういう状況であったのかを見ておこう。
 当時は一夫多妻制であったので、男は何人かの妻を持っているのが通常の姿であった。そこで、夫が北の方と同居している場合を考えてみよう。もし他の妻に生まれた娘(姫君)が、身寄りがないような状況に陥った時は、当然のことながら父親と同居している北の方の家に引き取られる。これが継子物語などにしばしば登場する典型的な「継子」である。もし祖父母が健在であれば、生まれ育ったその家で育てられる。
 紫上の身の上で見てみると、彼女は物心つく前に母親を亡くしていし、祖母に育てられるのだが、その祖母も亡くなってしまい、身内は叔父だけになってしまった。しかしその叔父も出家の身である。完全なる孤児で、当然のことながら、彼女は父親・兵部卿宮の家に引き取られるはずであった。しかし、そこには紫上にとっては継母に当たる北の方がいる。
 元々紫上の母親とこの北の方との仲は芳しいものではなった。それに、祖母もこの北の方を嫌っていた。そんな時に、源氏がしゃしゃり出てきて、彼女を拉致同然に二条院につれて来てしまった。おかげで紫上は継子の悲哀は味わわずに済んだ。源氏と結婚した後も、紫上とこの北の方との仲は望ましいものではなかった。もっとも、両者の仲は、北の方の方が紫上の幸せをうらやんで、一人がってに仲たがいをしていたのだが。

 さて、継母・継子というと、どういうわけか必ず険悪な関係になる。源氏物語以前にも、継子物語は数多くあったようだが、そのほとんどが「継子いじめ」が主題である。当時継母、継子の話は人々の興味を痛く惹きつけたのであろう。中には両者の関係がうまくいったものもあったはずだが、それでは面白くもなく、物語にならないということなのだろう。
 源氏物語や枕草子には『住吉物語』が登場する。継子いじめの物語である。枕草子212段に
  『物語は、住吉。うつぼ。殿うつり、国ゆづりはにくし。・・』
とある。住吉物語を最初に上げているということでも、先のことが証明される。
 ただ住吉物語とうつぼ物語以外はすべて散逸してしまって今に伝わっていない。この住吉物語も 源氏物語以前の「古住吉物語」は、まともな形では残っていず、今我々が目にしているのは鎌倉時代に改作されたものである。
 実は、源氏物語以前の継子物語として、もう一つ今に残っているものがあるのだ。ところが、どうしたわけか源氏物語にhはこれが一切触れられていない。『落窪物語』である。読んでみるとユーモアーに溢れていて、内容もなかなかの転変があっ結構面白い。
 それに源氏物語がこの作品からヒントを得ているのではないかと思われる場面などさえあるのだ。たとえば、主人公の姫君を、後に彼女の夫になる右近少将が垣間見する場面などは、源氏物語における空蝉と軒端荻が碁を打っている姿を源氏が垣間見るところときわめて似ていて、驚く。また、源氏物語にははるかに及ばないのだが、描写も結構細かい。なぜこの物語が源氏物語に取り上げられなかったのか、疑問である。

 さてそれでは、源氏による継母・継子論に移ろう。意約すると次のようになる。
①昔の例にもあるように「継母は、継子をいかにも懇ろに育んでいるようだが、それは表面だけ、真実は・・」などと、いか  にも気を回して継母の腹を探るようなのは、一見利口そうな態度に見えるけれども、あまり良いこととはいえない。
②たとえ腹の曲がったような継母であっても、それを気づかぬようにして、裏表なく慕い睦むことこそ大事なことなのだ。
③そうすれば、継母の方も、それに感じて、「こんな素直な継子に、どうして意地悪などできようか」と思い返すようになる  はずだ。
④互いにぎくしゃくすることはあったとしても、昔からの並々でない仇敵でもない限り、さしたる罪がない以上、やがては自 然にうまくいってしまうものだ。 
⑤たいしたことでないのに、角々しく難癖をつけて、無愛想に相手にもしないなどというのは、言う価値もないほど愚かなこ とだ。
⑥ 人にはみなそれなりに優れた趣味、風雅、あるいは得意な面を持ち合わせているもの。それを認め合うことが大切   だ。

 御説御もっともである。みなこんな関係であれば「継子物語」など存在しない。
 源氏の継母・継子論の場合は、明石女御に、継母である紫上を大事にしなさいと言うことが主眼になっているので、自ずから継子としての心得が中心に説かれることになる。彼はこうも言っている。
 「まったくの他人が、継子を自らの子として育てるなどということは、もうそれだけで、並み一通りのことではないのだ。しかもあなた(明石女御)の場合は、実の母(明石君)が付き添っている。にもかかわらず、紫上は依然として昔と変わらずにあなたに情愛を注いでいる。紫上ほど大ようで人格の優れた女性は他にはいない。だから大事な人として感謝し尊敬しなければならないよ。しかしだからと言って甘え過ぎてもいけないけれど」

 紫上と明石女御の関係は、いわゆる「継母・継子」の関係とは違う。女御には実の母もいるし、経済的にも誰よりも裕福である。通常なら継子などにならなくて済むのだが、「后教育」をしなければいけないという源氏の方針で、紫上に預けられたのだ。
 だから、女御に向かって継母・継子論を述べるのは的はずれであるし、無用なことだ。それに、そもそもこの女御は素直で人柄も優れている。彼女は、紫上のことを「実の母より母親」と思っているのだ。それは源氏も十分わかっているはずである。要は、いつもの源氏のくだくだしい弁舌を女御に披歴したくてたまらなかったというのが本当のところであろう。

 落窪物語の継母のいじめが凄まじい。ところが、継子である姫君はそれに対して少しの恨みも持とうとしない。それどころか、後に夫の右近少将が、いじめの復讐だといって継母をいじめたりすると、いとおしがったり時には継母を援助したりしているのだ。源氏の弁舌の中の②と③などはここから出ているのかもしれない。



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