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源氏物語

源氏物語たより319

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   源氏の執拗なまでのお説教 『若菜下』⑪  源氏物語たより319

 柏木との過ちにすっかり心神喪失状態にある女三宮に向かって、光源氏は、辛辣な皮肉と教戒を執拗に繰り広げる。これに対して宮は、何一つとして反論できる立場にはない。なにしろあの過ちは弁解のしようのない罪なのだから。その結果、源氏の一人しゃべりになり、それは三ページにもわたる延々たるものになった。さしたる負い目を持たない者でも、これだけ懇懇と執拗に諭されたら卒倒してしまうことであろう。
 彼のしゃべりは、詰問であり、非難であり、脅迫であり、強要であり、教訓であった。そして時折、自嘲になり哀訴になり情けの押し売りにもなった。
 宮とすれば、どんなに詰問され非難されようとも、柏木からの艶書という重大な証拠を源氏に握られているのだし、妊娠という事実もあるのだ。ひたすら針の筵の上に座って、源氏の教戒の嵐が終わるまで耐えているしかない。しかも源氏は、
 『まほにそのこととは、明かし給はねど、つくづくと聞こえ続け給ふ』
のだからたまらない。「柏木との不倫のことで」とは、はっきり指摘もせずに、なんとなくほのめかしつつ、しみじみと教戒を垂れるのだから、たまらない。いっそのこと、そのこととさして、叱責してもらった方がずっと気が楽だ。彼女の神経はズタズタになっていたことであろう。それでも彼はお説教を止めようとはしない。それはあたかも猫が瀕死のネズミをいたぶっているようなものである。とにかく宮は
  『涙のみ落ちつつ、我にもあらず思ひしみておはす』
ばかりである。涙を流し正体もなくうちしおれているしかないのである。

 それでは、源氏の皮肉や教戒などがどういうものであったのか、ここに整理してみよう。
 ①私は、あなたのことについては、粗略な扱いがないようにと今までずっと気遣ってきたつもりだ。それなのに、あなたの  父院は、私の扱いが悪いというが如くお取りになっていられる。そんなことを誰が院に伝えたのかは分からないが。
 ②これでは私はやりきれない。そこで言いたくはないが、あなたには言っておく。
 ③あなたはそもそも幼すぎるし思慮に欠けている。そのために人の言ったことをす  
  ぐうのみにし、信じてしまう。
 ④そして人(乳母か女房たち)の言うままに、私の扱いがなおざりだとか、浅はかだとかお考えになっているようだ。
 ⑤確かに
  『今はこよなくさだ過ぎにたる有様も、あなづらはしく、目馴れてのみ見なし給ふらん』
  (今は私もすっかり歳を取ってしまったので、そのことをあなたは軽蔑し、新鮮味もない者と見ておいでなのでしょう)
 ⑥父院の思し召しにつけても私の老いにつけても、あれやこれや残念でならず、情けない限りです。
 ⑦でもこの年寄りに、あなたのことを心配されて、父院がお預けになったのですから、お年を召した院と同じように私のこ  とを考えていただいてもいいのではないでしょうか。それなのにあなたは、ひどく私をお見下げになられる。
 ⑧私は出家したいのですが、父院に引き続いて私まで出家してしまったのでは、あなたの後見をする人さえいなくなって  しまう。それを考えるととても心配でたまらず、出家するどころではないのです。
 ⑨父院の御健康も優れず、お命も残り少ないという時に、今さらなる醜聞を立てるようでは、院があの世に行かれた時   の妨げになることでしょう。そのような不孝の罪は本当に重いものです。
 ⑩かつて私も、年寄りの物言いの嫌らしさを身に沁みて感じた時代がありましたが、私自身が、今はその賢そうな繰り   言をいう年寄りになってしまいました。こう言う私を、あなたはさぞかし「うっとうしく嫌な奴」とお思いかもしれません。
 ⑪いづれにしても父院の五十の賀の祝いには行かなければならないでしょう。しかし、(妊娠による)そんな見苦しい姿を  見せるわけにはいきません。またすっかりやつれてしまったお顔もしゃんとつくろって行くようにしなければなりません。

 これだけ、幼さを非難され、父院を出汁(だし)に使われ、自嘲的な皮肉を言われ、妊娠したさまを「見苦し」とまで嘲られたら、これに堪えられる女性などいるだろうか。
 しかも源氏の論理は、「おっしゃる通り」まことに正論なのだ。
 このような事件が起きてしまった原因が源氏にないわけではない。彼は確かに女三宮を粗略に扱ってきた。特にここのところ紫上の病にかかずらっていて、宮を顧みようとしなかった。が、だからと言って、その妻が、人の道を踏み外すようなことをしていいわけはない。とにかく全責任は、彼女の「幼さ」にあるのだ。
 ただ振り返ってみれば、この事件は宮自身が求めて犯した罪ではない。男の好色の餌食になってしまっただけで、彼女は被害者で、いわば女の業というようなものだ。
 しかしその結果は、あまりにも重大で絶望的である。

 それにしても、源氏の皮肉・教戒がなぜこれほどまでに辛辣になり、執拗になったのだろうか。またなぜ宮をここまでいたぶらねばならなかったのだろうか。
 准太上天皇という権威と名誉と、そして自尊心をいたく傷つけられたことは確かである。ではそれに対する憤懣、激怒からであろうか。いやそれは当たるまい。もしそうであるならば、「まほに」憤って「引きまさぐり、うちかなぐる(引っ張り回し叩きのめす~これ、葵上が物怪に打擲された様が、六条御息所の夢に出てきた場面~)」ような暴力的行為をしたかもしれない。
 源氏はそうはしなかった。極めて冷静である。そして諄々乎として宮を教戒し、ねちねちと皮肉を言っている。時には、宮の父院を出汁にして宮の情に訴える。なにしろ院は宮を最も愛しくれ心配してくれている人なのだ。「父院・・」と言われただけで宮は泣き伏してしまうはずだ。また、時には、宮に対する自分の思いやりの深さを押し売りし、時には、自らの老いを出して、自嘲気味に愚痴る。

 私は、ここまで源氏が執拗に辛辣になったのには、二つの理由があると思っている。
 一つは老いに対するいらだちと恐れである。源氏はこの時、四十七歳、現代で言えば七十歳近い歳である。老いは、どう努力しようが避けられるものではない。しかし避けたい。この焦り・いらだちが、教戒の中に、三度も「老い」という言葉が出る結果になったのだ。最初は
 『今はこよなくさだ過ぎにたる有様』
と言っている。二度目は
 『さだ過ぎたる人をも、(院と)同じくなずらへ聞こえて、いたくな軽め給ひそ(軽蔑しないでいただきたい)』
であり、そして三回目は、次のような皮肉である。
 『いかに「うたての翁や」と、むつかしくうるさき(気持ちがあなたの)御心(に)添ふらむ』
 そして実はもう一度決定的なところで「老い」を出しているのだ。それは不倫問題が起こって以降、初めて柏木と対面した時のことだ。源氏は、体調をいたく損ねている柏木に酒を無理強いする。その上で、こう言う。
 『すぐる齢にそへて、酔ひ泣きこそとどめがたきわざなれ。衛門の督(柏木のこと)、心とどめてほほ笑まるる。いと心恥づかしや。さりとも今しばしならむ。さかさまに行かぬとし月よ。老いはえ逃れ得ぬわざなり』
 (寄る年波につれて、酒を飲むとすぐ酔い泣きしてしまう。そういう私の姿を柏木は笑って見ていられる。なんとも恥ずかしいことだ。でも、若いと言ってもしばしのことだ。年月は逆さまに流れることはない。誰にとっても老いは避けられないことなのだ)
 その老いを、源氏は、若い柏木と女三宮の姦通という事実によって、痛切に思い知らされた。自分もかつてはしたことであるが、ここでそのしっぺ返がやってくるとは思いもしなかったのだ。その悔しさといら立ちが、何度にもわたる「老い」という言葉に出てきてしまった。いかんともしがたい「老い」という現実を二人に知らされたために、彼の皮肉や教戒は、自ずから執拗にして辛辣、そして冗長になったのだ。

 もう一つは、源氏の論理好きがなさしめたものと思う。源氏の論理の内容は、いつも高度で晦渋で、しかもくどい。「女樂」の後の夕霧との音楽論や紫上との女性の品定め、あるいは物語論や絵画論は、微に入り細に入りで、切れ目がない。
 彼は話しながら、自分の論理は適切か、内容に漏れはないか、相手に訴える力を持っているか、など常に計算しながら喋っている気がする。聞いている者はさぞ肩が張ったことであろう。
 女三宮に対しても、この論理癖が出た。迷える子羊に対して、彼は多くは彼女の情に訴えた。情に訴えれば、相手をいたぶるのに最も効果的である。彼は、女三宮に父院に手紙の返事を書くことを強要するが、容易には書けないでいる憔悴した宮の姿を
 『いとらうたげなり。・・いとどあてにをかし』
と見ているのだ。自分の論理や行為に満足し、そこから快楽を感じているような、あたかもサディズムに浸っているかのようである。

 このようなことで、彼のお説教と皮肉は、誠に嫌らしく執拗なものになった。女三宮が源氏のこの執拗さから逃れる方法は、死か出家か。彼女は後者を選んだ。



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