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源氏物語

源氏物語たより350

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   悲しみを演出する仕掛け  源氏物語たより350

 『御法』の巻に入ると何か胸を締めつけられるほど切なくなり、涙なくしては読めなくなるという話は何度もしてきた。
それは一つには、この巻の冒頭が、紫上の重篤な状況から書き起こされているところにもあろう。こうある
 『紫の上、いたうわづらひ給ひし御心地の後、いとあつしく(病気がちに)なり給ひて、そこはかとなく悩みわたり給ふこと久しくなりぬ』
 「そこはかとなく」などという言葉が、いかにも紫上の頼りなさを感じさせ、「もう彼女は幾ばくも無いのでは」と思わせ、長らく付き合ってきた源氏物語のヒロインとも別れなければならないのだと思うと、哀しみの感情を抑えられなくなってしまうのだ。
 しかも彼女は、本意の出家を認めてもらえない不満と、そのことによる来世に対する不安を抱えたままなのだ。早く出家しなければという焦燥の気持ち、それが満たされない鬱屈した感情を持ったまま死を迎えてねばならない人に対する憐憫の情が我々の心を揺するのだ。
 しかし、これは人の死を目の前にした時に感じる一般的な思いだ。死に当たって哀しみの伴わないものはない。まして不満や恨みを残したまま死を迎えなければならない者に対しては、それが何人たりとも何らかの哀しみを抱かせるもので、ひとり紫上に限ったものではない。

 『御法』の巻には、そういう一般的な死の哀しみ以外に、我々の心を揺する仕掛けがあるような気がする。それは「対比」の効果である。
 紫上は、長年にわたって書かせていた法華経千部の供養を挙行する。准太上天皇・光源氏の妻の供養ということもあったであろう、供養の式には百官が集まり、誠に荘厳・華麗なものになった。しかもそれは
 『弥生の十日なれば、花盛りにて空の景色などもうららかにものおもしろく、仏のおはすなる所の有様、遠からず思ひやられ』
るほどであった。まるで極楽を思わせるほどであったというのだ。
 しかし、それを見る紫上の心は
 『何事につけても心細くのみおぼし知る』
ばかりなのである。
  
 また、夜もすがら行われた読経などに合わせて響いて来る鼓の音も、大変興深く聞こえてくる。そんなの明け方の様子は、
 『ほのぼのと明け行く朝ぼらけ、霞の間より見えたる花の色々、なほ(紫上がそうであるように)春に心止まりぬべく匂ひわたりて、百千鳥のさへずりも、笛の音に劣らぬ心地して、もののあはれもおもしろさも残らぬ程』
なのである。
 さらに「陵王」の舞いや楽の音が華やかに賑わしく聞こえて来る。上達部などの中でものの上手の連中が演奏する管弦は、いかにも気持ちよく興趣溢れるものである。
 しかし、それを見聞きする紫上の心は、
 『(命は)残り少なし』
と、すべてのことが「あはれ」に思われるばかりなのである。

 供養の読経にせよ管弦にせよ、また自然の様子にせよ、周囲が明るく楽しく賑やかであればあるほど、紫上の心は寂しく沈んでいくしかないのである。
 この明と暗、賑わいと寂寥、荘厳と沈鬱などの対比の技法が、読者を知らず知らずのうちに哀しみの淵に引きずり込んでいるものと思うのである。
 
 そしてこの間に、次のような言葉がちりばめられていく。
 『あながちに(この世に)かけとどめまほしき御命とも思されぬを』
 『(自分の命も)残り少なし』
 『われ一人、行方知らずなりなむを』
 『(式から去って行く人々を見ては)遠き別れめきて』
 『(参列した人々の管弦なども)見聞き給ふべきとぢめ(最後)なるらむ』

 単に紫上の哀しみを「これでもか、これでもか」と執拗に描写するのでなく、哀しみとは対極にある形象をあえて描くことによって、彼女の哀しみが深くイメージされ、読者の感情をせり上げていく。その対比の技法を繰り返しながら、紫上の最期を思わす形象を短い言葉で処々にセットすることによって、またさらに読者を哀しみの中に引きずり込んでいるのだ。 
 我々は無意識のうちに、このような紫式部の技法に操られ、術中に陥っていた、といえないだろうか。


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