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源氏物語

源氏物語たより355

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    「琴」が重要な役割を果たす『明石』の巻  源氏物語たより355

 『花宴』の巻では、「月」が重要な役割を果たしているということを以前述べたことがある。光源氏が、弘徽殿の辺りを彷徨(さまよ)い歩き、その結果、朧月夜に出会うことができたのは、その日に行われた花の宴の気分の高揚だけではない。おぼろな月の美しさを愛でたことにもよるのである。『朧月夜にしくものはなし』と詠いながら細殿をやってくる朧月夜に巡り合い、彼女の袖を捉えて関係を持った。二人を結びつけたのは月を愛でた互いの心であった。
 また別れ際に交換した扇に書かれていた絵は「霞める月」であったし、右大臣邸で行われたのは「弓の結(けち 競技)」であった。「弓」は、その形が月を表わしている。この「弓の結」の晩に二人は再会した。さらに巻の最後で、二人は歌を詠み交わすが、その歌にも「あずさ弓」や「弓張り月」が登場してくる。この巻は終始月を中心にして進められ、若い男女の逢う瀬を月が盛り上げていくのである。
 このように紫式部は、一つの事象(この場合は月)をさまざまな場面に登場させて、ドラマを効果的に構成していくのである。

 『明石』の巻では、「琴」が重要な役割を演じている。源氏と明石君を結び付ける役を演じているのが、実は琴なのである。
 明石入道に導かれて、源氏は明石にやっては来たものの、独り寝の寂しさは須磨の時と変わりはない。目の前に大きく姿を現わしている淡路島を眺めて、流謫の身のやるせなさを嘆くのである。やるせなさに嘆きわびた源氏は
 『久しう手触れ給はぬ琴(琴の琴 七絃)を袋より取り出で給ひて、はかなくかき鳴らし給へる』
のだが、その琴の音色は、明石君が住む岡辺の邸まで響いて行く。その音色を、情趣を解する女房たちは、「身に染みて素晴らしい」と感動する。もちろん明石君もしみじみと心を動かして聞いていた一人である。(このことは後に出てくる)
 明石入道も、それに聞き入りながら、出家してしまったのが残念だと言って泣く。出家の身では喜怒哀楽を素直に表に出せないからだろう。それでも感に堪えず、彼は、岡辺の邸に筝の琴(十三弦)と琵琶(四弦)を取りに行かせて、源氏と合奏を始める。源氏が何気なく
 『筝の琴というものは、女が無造作に懐かしい様子で弾いているのが、一番心に響くものだ』
と話すと、明石入道は「待ってました」とばかり、にやりとしながら、源氏が何気なく洩らした感慨に娘(明石君)のことを結びつけてしまう。なんと明石君は筝の琴の名手であったのだ。その話を聞いた源氏は
 『いと興ありけることかな。いかでかは聞くべし』
と身を乗り出す。入道は、さらに源氏の心を惹きつけるように、娘の筝の琴(ついでに琵琶も)の自慢話を開陳する。彼は、源氏が娘の琴に興味を示したことを
 『限りなく嬉しと思へ』
るのである。

 入道は、娘と源氏を結びつけるべく、居立ち駆けずり回るのだが、本人は、あまりの身分差に恐れをなして、源氏の誘いに乗って来ない。二人の間で、しばらく「逢いたい逢わない」の『心比べ』」が展開される。
 事態が一向に進展しないまま秋になった。明石の浦の秋は殊更情緒深い。源氏は、入道にこう言ってせかす。
 「こんなに情緒ある秋ではないか、この浪の音に合わせて、娘が弾く琴の音を聞きたいものだ。そうでなければ、せっかくの情趣も甲斐のないものになってしまう」
 すると入道は、娘の意志に関係なく『あたら夜を』と、源氏を誘う手紙を送る。「あたら夜を」とは、後撰集の源信明の歌
 『あたら夜の月と花とを同じくは 心知れらむ人に見せばや』
から引いてものである。「こんなに月も花も素敵な夜ではないか、同じことならこの情趣を理解できる人に見せてあげたいものだ」という意味である。八月十三夜のこの月の夜の良さ(娘の良さ)を理解していただける源氏さまに、ぜひとも娘に逢ってもらいたいものだ、と積極的に訴えてきたのである。入道は、娘の住む邸や部屋をまたとないほどに磨き飾って源氏の御入来を待つ。
 源氏が、入道の誘いに引かれて、娘の邸に行くが、本人は頑なになっていて会おうとしない。再びここで、二人の間は膠着状態に陥ってしまう。源氏は強引に娘の部屋に押し込んでいくのも、これほど月の綺麗な夜の情趣に合わない行為だと躊躇する。
 そんな時である。
 『近き御几帳の紐に、筝の琴の引き鳴らされた」
のである。几帳の帷子(かたびら カーテン)の紐が、何の加減であろうか、筝の琴の弦に触れ、「ポロロン」と響いたのだ。この琴は、つい最前まで、明石君がのどかに弾き鳴らしていたのである。源氏の来訪を予想もしていなかったので、片付けもしないで無造作に置いてあったのだ。すると源氏は即座にこう言う。
 『この聞き馴らしたる琴をさえや』
 「あなたの御父さんから、ずっとあなたの琴の実力については聞いている。その琴さえ私に聞かせて下さらないというのですか」という意味である。
 この後二人の間にはとかくのことが展開されるのだが、とにもかくにも琴を介して結婚にたどり着いた。

 翌年の秋、源氏召喚の宣旨が下り、源氏は京に帰還することになった。一方、明石君は、明石に残ることになり、二人は哀しい別れを迎えるのである。別れに当たって、源氏はこう語りかける。
 『さらば、形見にも忍ぶばかりの一こと(琴)をだに(聞かまし)』
 そして、京より持ってきた琴の琴(六弦)を取りにつかわして、まず源氏が心ことなる調べをほのかにかき鳴らす。感に堪えずに入道は、筝の琴を娘の部屋に差し入れる。明石君は、涙をとどむべくもないのだが、源氏の琴の音にさそわれたのであろう、
 『しのびやかに(琴を)しらべたる』
のである。その音色は澄みきっていてまたとない素晴らしい演奏であった。源氏は、なぜこれまでもっと聞かなかったのだろうかと残念に思う。
 その後、二人は琴を間にして歌を詠み交わす。明石君の歌
 『なほざりに頼めおくなる一言(琴)を 尽きせぬ音(ね)にや懸けて偲ばむ』
 (あなたは将来のことをとかく約束してくださいますが、それを頼みとしていいものやら、心もとのうございます。でも私はその一言(源氏の言葉と素晴らしい琴の音)を泣きながらも、心に懸けてお慕いし、お逢いできる機会を待つことにいたします)
  源氏の弾奏は「ほのかに」、明石君もまた「しのびやかに」に弾く。二人の琴の名手が、明石の浦波をバックに弾く風情は、別れに相応しい。
 
 出会いのきっかけになったのも「琴」、結ばれるきっかけになったのも「琴」、そして別れに当たって涙の仲立ちになったのも琴。このように琴は物語の展開上、終始重大な役目を演じ続けているのである。『明石』の巻をうっかり読み進めていくと、琴がそのような意味を持っていたことに気づかずに過ごしてしまうのだが、紫式部は、一つの事象を実に用心深く活用していて、しかもそれを効果的に生かし、見事に物語を構成しているのである。



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