郷愁

お客さもの来る時くらい

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   お客のくる時くらい

 私は、庭の手入れをするのが好きで、特に、春と秋は休みといえば庭に出て、庭木の剪定をしたり野草の世話をしたりしている。自分の庭が奇麗になるのは快いものである。
 しかし、最近は、自分の庭を奇麗にするということは、自分の家だけのことではなく、地域と深くかかわっていることなのだなと感じている。
 春になると、エビネやニリンソウやイワタバコの花が咲く。それを通りの塀の上に飾っておくと、通る人ごとに「ああ、きれい!」とか「かわいい!」とか言って、通り過ぎていく。塀の草花が、通る人々の心を少しでも和ませ、「この辺はとても
気持ちのいいところ」と感じさせているのだとすれば、それは、地域のために貢献していることになるのだなと、改めて自分の行為を見直している。

 以前、奈良の佐保路地区というところを歩いたことがあるが、本当に気持ちの良い地区であった。勿論そこは、奈良という歴史の街であるし、古都保存地区に指定されている場所でもあるので、我が街と比較するのは無理というものであるが。しかし、少なくとも、佐保路にはそれほど広壮な屋敷があるわけでもないし、道路が整備されているというわけでもない。ただ、それぞれの家々の庭木や草花がよく手入れされていて、なんともいえない清潔感が漂っているのだ。

 ところで、私の住んでいる地区『松ケ丘』は、戸数300戸の小さな街である。名前は“松ケ丘”とことごとしいが、実は松の木は一本もないし、環境がいいという地域でもない。ごく普通の住宅地である。それでも、地域の皆さんはそれぞれ自分の庭などの手入れをよくしていられる。だから、さらにもう一歩街作りのために力を合わせれば、佐保路ほどにはいかないまでも、小さい地域でもあることだし、案外簡単に環境の良い街が作れるのではないかと思う。

 ところが、我が『松ケ丘』にたった一軒だけ、荒れ放題にしている家がある。「ここにはだれも住んでいないのかな」と思ってしまうほどの荒れようである。
 道路の境の柵は、錆びていてあちこち壊れて倒れかけている。それにどういうわけか、庭にすすきが生えていて、夏から秋は青青として堂々とした姿を誇っているが、冬になってもそのままで、枯れ葉が風に吹かれて風情豊かだっりしている。
今までは、「この家のことはこの家のこと。他人がとやかく言う筋合いのものではない」と思っていただけであったが、最近は考えを変えた。「我々の住まいは、自分のものであって実は自分だけのものではない」というふうに。いくら自分の家とはいえ、きたないままにしておいていいはずはない。
 私の子どもが小学生の頃、担任の先生の家庭訪問の日などには、玄関の掃除をし、打ち水ぐらいはしておくように言っておいたものだ。それに家の中には花などを飾っておくようにとも言ってきた。
 それは、先生にカッコいいところを見せようとしたのでもないし、自分の子どもをよく思ってもらおうとしたものでもない。
そうすることは、初めて訪れるお客に対しての礼儀であるし、日本の習慣であり、伝統であり、ごくあたり前のことと思っていただけだ。それに、そういうもてなしは、訪れた客に「ああ、私を待っていてくれたのだな」という感情を生むものだ。
 ところが、訪れてみたら、雑草だらけ、すすきの草は生えるに任せ、玄関を入ったら足の踏み場もない、などとなっていたらどうだろう。「ああ、私は歓迎されざる客なのだな」と微妙に感じとられてしまう。

 一つの地域もそうなのだ。「ああ、なにかゆかしいものがあるな」と感じさせ、「また今度通ってみようかしら」と感じさせるようでありたい。幸い最近は、ガ-デニングがはやっていて、いろいろな草花を飾っている家庭が多い。私の家のすぐ
近くに、草花だけでなく、切り石や陶器の飾り物やちょっとした家具などでいろいろアレンジして庭作りをしている家がある。通るたびに新たな配置がしてあったりして、つい今度はどんなになっているかなと期待してしまうほどだ。
 これなど自分の趣味が地域の環境作りに一役買っているということで、まさに一石二鳥だ。地域の人がみなそうするようになれば、佐保路には及ばなくても、さらに住み心地良い町になること間違いない。




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