源氏物語

源氏物語たより361

 ←源氏物語たより360 →源氏物語たより362
   割を食った葵上  源氏物語たより361

 政略結婚に等しい形で結婚をさせられた葵上は、割が合わない。左大臣の当面の政敵は、春宮を孫に持つ右大臣。今後の政局は右大臣が中心になるであろう。したがって、左大臣は、桐壺帝の寵愛厚い光源氏を婿にすることで、巻き返しを図る必要があった。
 もちろん二人を結婚させたのはそれだけではない。源氏のたぐい稀な容姿や才能に左大臣自身がすっかり惚れ込んでいたこともある。しかしそれは葵上にとっては何の意味も持たない。
 そもそも源氏は葵上より四歳も年下の十二歳で、今の小学校六年生だ。性的な芽生えもないだろうから、とても結婚の歳とはいえず、たとえ添い臥ししたとしても全くの形式に過ぎない。
 それに何より問題なのは、源氏の心は、常に藤壺宮で占められていたことだ。こんな状態ではいかなる女性も彼の心の中に入り込む余地はない。源氏が
 『内裏住みのみを好ましうおぼえ給ふ。五、六日さぶらひ給ひて、大殿(おおとの 左大臣邸)に二、三日など絶え絶えにまかで給』
うのも自然の成り行きである。内裏にいれば藤壺宮に会うチャンスがあるのだから。
 源氏十八歳、葵上二十二歳の時に、夕霧が生まれる。恐らくこの六年間というものは、二人は床を共にすることもほとんどなかったのであろう。

 「雨夜の品定め」の翌日、源氏は久しぶりに左大臣邸に出かける。それは葵上に会うのが目的なのではない。あまりに長く左大臣邸に行かないのでは
 『大殿(左大臣)の御心いとほしければ』
なのである。
 そこで、久しぶりに見る葵上は、彼の目には
 『人(葵上)のけはひも、けざやかに気高く、乱れたるところまじらず。・・あまりうるはしき御有様のとけがたく恥づかしげにのみ思ひ静まり給へる』
と映るのである。「けざやか」も「気高い」も「乱れたるところなし」も「うるはし」も、みな同じような範疇に入る言葉で、きりっと整っていてすきがなく、こちらが緊張させられてしまう雰囲気を言う。確かにこれでは彼が「さうざうし(ものわびしい、つまらない)」と感じるのも無理がないし、この後、方違えを口実にさっさと左大臣邸を逃げ出してしまうのも仕方のないことだ。
しかしそれも源氏の目から見た葵上の印象であって、葵上側から見れば、源氏もまた、つれなくうとうとしいものに映ったことであろう。男の心に熱く思慕する女性が厳然として収まっている以上、他の女性は空しい存在でしかない。

 葵上は、夕霧を生むやすぐに亡くなってしまう。互いに心解けることなく砂を噛むような夫婦関係で、「何とも悲劇的な」と言わざるを得ないのだが、しかし・・。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 郷愁
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏
もくじ  3kaku_s_L.png 源氏物語
  • 【源氏物語たより360】へ
  • 【源氏物語たより362】へ
 

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【源氏物語たより360】へ
  • 【源氏物語たより362】へ