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源氏物語

源氏物語たより399

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   宇津保物語の兼雅と光源氏   源氏物語たより399

 今、『宇津保物語』を読んでいる。そのあらすじは概ね次のようである。

 遣唐使として唐に渡る途中、嵐にあって難破し南の島に漂流した清原俊蔭は、その国で天人から琴の秘曲を伝えられる。無事帰朝した俊蔭は、一人娘に琴の秘曲を伝授する。この娘が、後の右大将・藤原兼雅と契って仲忠を生むが、その後、零落した仲忠母子は大杉の空洞(うつほ)に住むようになる。何年か後、琴の奇瑞によって仲忠母子は兼雅と再会して幸福な生活を得る。
 その後は、絶世の美女「あて宮」を巡っての求婚譚が繰り広げられ、結局、「あて宮」は東宮妃として入内してしまう話や、仲忠が、帝の第一皇女と結婚して娘を出産し、その娘に琴の秘曲の伝授をする話などが展開されていく。そして 琴によって仲忠一家が繁栄するという結末になるのだが、音楽中心という珍しい物語である。

 今回は、源氏物語とのかかわりを中心に読んでみたのだが、なかなかそれらしきところには行き当たらず、むしろその冗長さにげんなりしてしまって、「どこで読むのを止めようか、ここまでいったら止めよう」などと思いながら読んでいる有様であった。それでも、全体の三分の二ほどまでに来てしまった。この物語も源氏物語に劣らないほどの長編で、原稿用紙にすれば二千枚近くははあろか(源氏物語は約2500枚)。
 ただ決定的に違うところは、この物語にはさしたる筋がないということである。会話によってずらずらと進めているだけなので、緊張感もないし昂揚感もない。冒頭の俊蔭と母子の話し以外は、『田鶴の群鳥』という巻まで、主人公が誰なのかすら明確でない。「あて宮」という高貴な美人に、さまざまな男が求婚する話が中心になっているのだが、彼女が主人公とも思えない。そもそもなぜこれほど多くの求婚者を次々登場させるのか、その意図も分からないし必要性も感じない。
 『蔵開』という巻からは、琴の名手である仲忠が主人公になり、少しは物語らしい体裁を見せてくる。それでもこれといった筋はない。これが、この物語が、『竹取物語』や『伊勢物語』や『源氏物語』などのようには、後世の人々に読まれなくなっている理由なのであろう。恐らく『宇津保物語絵巻』というものもないだろう。源氏絵などはあれほど溢れているというのに。

 この『蔵開中』の巻で、ようやく「お!」と思わせる場面に行き会った。それは仲忠の父親である兼雅の言葉の中に出てくる「色好み」についてである。兼雅は、色好みにかけては相当の豪傑である。少々長いが、彼の言うことを聞いてみよう。
 『人の妻などのもとにも到らぬ隈なく歩きて、みな憎まれてこそありしか。今様の人は怪しうまめにこそあれ。まろは、かしこき天が下の帝の御娘を持たりとも、そのおとうとの皇女たち、そのあたりの人の妻は、女御まで残してましや』
 「自分は帝(院)の皇女を妻にしているがそれはそれとして、皇女の姉妹や人の妻までも残るもののないほど自分のものにしたものだ。たとえ女御であっても例外ではない」というのだから相当の豪のものである。これは男同士の猥談の時の自慢話ではない。妻と仲忠を前にして今までの女性関係をあけすけに吹聴しているのだ。しかもぬけぬけと「今時の男は不思議に真面目でいかん」と言っているのだから恐れ入る。
 この時、仲忠が二十二歳だから、兼雅は四十歳近い。
 そういえば、「あて宮求婚譚」のところで、いい歳をした兼雅も求婚者の一人として名を連ねている。仲忠もその一人であるから、何と親子で同じ女性に求婚していることになる。世の中にこんなことがあっていいのだろうかと理解に苦しんでいたが、ここに至ってやっとその理由が分かった。それほどに彼は好色な男であったのだ。
 さすがに聞いていた仲忠は呆れて「とんでもないこと!」と言い、妻も「そんなことを子供を前にして言うものではありません」と怒り出す始末。しかし彼の好色話は終わらない。
 「お前が今も「あて宮」が好きだというなら、彼女が里下がりしている時に忍んで行けばいい。酒に酔った格好をしてひたすら彼女の部屋に忍び込んで行くのだ。人に見つかったら、「いや、酔った、酔った」と言えばそれで済む。
そもそも「文を交わし、親の許しを得て」などというまどろっこしいことをするからいい女が手に入らないのだ。隙を見て入り込んでしまえ。「あて宮」と源中納言の妻は早くものにしたほうがいいぞ」
と息子を急き立てるのだから、開いた口がふさがらない。
 実は「あて宮」が東宮に入った時点で、「あて宮物語」は終止符を打っているのである。彼女には既に子供までできている。普通なら手の出しようがない女性なのに「里下がりの機会をねらえ」と言う。ついでに仲忠の友達である源中納言の妻までものにしてしまえと言うのだから、桁違いの傑物である。もちろん仲忠は素直な人柄で、親孝行。それに妻思いであり子煩悩、とても兼雅のそそのかしに乗るような男ではない。
 この兼雅は、行動が豪快であるばかりか、言葉遣いも豪放磊落で品がない。「あて宮」が、東宮の子供を産み、さらにまた二番目の子まで宿したことを知った兼雅は、
 『今一つのくぼありて、蜂巣の如く生み広ぐめり』
と表現している。「あて宮」の親には子供が大勢いて、その子供たちが官位をほしいままにしているうえに、娘の「あて宮」までが東宮に入って次々子を生む。そのことが兼雅は気に入らない。そこでこんな毒舌を吐いたのだ。
 この「いま一つのくぼ」の「くぼ」とは、女性の陰部のことである。当時どの程度使われていた言葉であるかは知らないが、少なくとも上級貴族である大将ともあろう者が使うものではあるまい。それをこともあろうに東宮妃に使い、さらに「まるで蜂が子を生むように次々と子供を生んでいくようだ」と言う。聞きとがめた妻は彼を遮る。 
 『荒々しう、かく悪毒(あくどく)は吐き給ふ』
 「品のない、毒つくようなことをおっやる」という意味である。それでも彼の考えが変わるものではない。
 『男は、身を顧み、人の思はんことを知りなば、よき妻は得てむや』
 「男というものは、自分の行動を反省してみたり、外聞を憚っていたりしたら、理想の女など手に入れられるものではない」とまで言っている。

 さて、この場面がなぜ私に「お!」と思わせたのかということに触れていこう。それはこの兼雅と光源氏に相当の共通点があるからである。もちろん源氏は、兼雅のように豪放磊落でもないし、まして品がないわけではない。ところが兼雅の言葉には源氏を彷彿とさせるものがいくつもあるのだ。
 まず「女御も例外ではない」については、桐壷帝の妻(藤壺宮)を犯したことが上げられる。彼女は父の寵姫であり義母に当たるのだから、兼雅よりも質は悪い。さらに子の冷泉帝の妻(秋好)にも言い寄っているし、弟(朱雀帝)の寵姫・朧月夜とは何度にもわたって不義を働いている。
 「人の妻」としては、上記以外に空蝉が上げられよう。
 「親の承諾を得ず」の例には、紫上がある。父・兵部卿宮の承諾もなしに紫上を拉致同然に二条院に連れてきたのである。  
 「強引に女の部屋に押し込んだ」例としては、空蝉や軒端荻、あるいは朧月夜が上げられる。あれはほとんど強姦である。
 「空酔い」機嫌を装ったのは、朧月夜との二度目の逢瀬の時である。
 これらの源氏の女性遍歴は、いずれも兼雅に勝るとも劣るものではない。

 しかし、このように兼雅と源氏の色好みに共通するところがあるからといって、
 「源氏物語は、宇津保物語の影響を受けている」
などと言うつもりはない。二つは、まるでレベルが違うのである。兼雅の色好みの話は言葉上のことに過ぎない。その実態がはたしてどうなのかは物語の上では一切語られていない。ところが、源氏の場合は、一人一人の女性との邂逅が「そうならざるを得ない必然性」をもって、詳細にしかも情緒豊かに、緊迫感をもって展開されているのである。
 もちろん源氏物語が、『宇津保物語』など先行の物語の影響を全く受けていないとは言わないが、ただ『日本歴史大事典』(小学館)がいうような、
 「物語文学史の上では、とくに源氏物語への影響は見逃せない」
というほどの関連は、ほとんど見出すことはできない。そこには画然たる一線があるということをどうしても否定できないのである。源氏物語の優れた点を抄出すれば
 ゆるぎない物語の構成       変転きわまりない筋             無理のない伏線の設定 
 緻密な心理描写           自然と人事の趣ある交錯          適度な諧謔と辛辣な風刺
 あくなき「あはれ」の追求      恋や女の哀れさの徹底した掘り下げ     引歌などによる古典の効果的な活用  
 わりない人の性(さが)のあぶり出し ・・・・
というようなことになろうが、『宇津保物語』にはこれらの一つをも見つけ出すことができないのだ。また源氏物語に先行する『落窪物語』なども同じことが言える。
 これらの物語を読んでいると、源氏物語は、「天から突然舞い降りてきた天女のような存在」という印象をますます強くするばかりなのである。


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