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源氏物語

源氏物語たより431

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   かぐや姫を見つけたらむやうな心地 源氏物語たより431

 早稲田大学の中野幸一教授が面白い話をされた。
 「今のお伽噺は嘘ばっかり書いてあるから、まともな子供なら納得できなくて、「なぜ?」「どうして?」を連発して、母親を困らせることでしょう。
 『桃太郎』にしても、なぜ突然川上から桃が流れてきたのか、また包丁で桃を切ったら、なぜ中から赤ん坊が出てきたのかさっぱり理屈が通らない。黍(きび)団子にしてもそうです。鬼が島まで遠征しなければならないのだし、相手は奇怪のつわもの、もっと腹の足しになる食料でなければならなかったはずです。
 あれは黍団子しか持たせてあげられないほどおじいさん・おばあさんの家庭が貧困だったことを表しているのです。それをちゃんと説明しなければいけません。
 また、桃から赤ん坊が生まれたのは、あのおじいさん・おばあさんには子供がなくて、それが授かることを日夜懇望していた、その結果なのです。
 桃太郎が、鬼が島から金銀財宝を持ち帰ったのは、長年貧困にあえいでいたおじいさん・おばあさんの家が栄えたことを表しています。子供が授かったこととともに本願成就の“目出た、めでた”を、桃太郎の話は言おうとしているのです。
 そもそも包丁で桃を切ったら赤ん坊は真っ二つ・・」。

 まあ、そこまで子供に説明していたら、お伽噺の単純素朴な躍動感が失われてしまうだろうから、ある程度いい加減なところがあってもいいのだろうが、でも話を聞きながら、「なるほど」と思う点が多かった。
 江戸小咄に桃太郎の話が出てくる。桃太郎が、鬼が島に鬼退治に出かけた時に、雉に出会った。雉は桃太郎にこう聞く。
  「桃太郎さん、桃太郎さん、お腰に下げているものは何ですか。一つ私に下さいな」
  桃太郎は答える。
  「うん、これか?これは黍団子じゃ」
  すると雉はこう言う。
  「あ、あのまずいやつか!」
 以前はこの小咄を単に笑って聞いていたのだが、なるほど黍団子は貧しさの象徴だったのか、と思うと笑えなくなってしまった。おそらく桃太郎の身なりもひどくお粗末なものであったのだろう。ところが、絵本などを見ると、桃太郎は華やかな衣装に身を包み、鉢巻をきりりと締めて凛々しい若者として描かれている。あれも間違いなのだ。それにしてもそんな貧しげな桃太郎に、雉はどうして物をねだろうとしたのだろうか。「あのまずいやつか!」と舌打ちしている以上、桃太郎よりましな生活をしていたはずなのに。これも説明不足だ。

 源氏物語の『手習』の巻に、
 『かぐや姫を見つけたりけむ竹取の翁よりも珍しき心地するに』
と言う文がある。比叡の山麓の小野に住む尼君が、初瀬詣での帰りに、宇治で浮舟を探し出した時の気持ちを言ったものである。
 浮舟は、薫と匂宮という当代きっての二人の貴公子の愛の板挟みにあい、激しく苦悩した結果、宇治川に投身自殺する。しかし、実は精神朦朧の状態で某院のあたりを彷徨していたのだ。そしてこの院の近くの大木の根元で人事不省に陥って倒れていたところを、尼君一行に助けられたのである。
 それでは、どうしてこの尼君は浮舟を見つけて「かぐや姫を見つけたりけむ竹取の翁の心地」がしたというのだろうか。
 源氏物語は、お伽噺ではないので、その経緯がきちっと説明されている。
 この尼君はもともと上達部の北の方で、たった一人の娘を目に入れても痛くないほどに慈しみ育てて、立派な婿も迎えていたのだが、娘はにわかに亡くなってしまった。すっかり悲観した北の方は、尼になって小野の里にわびしく暮らしていたのである。それで、彼女はいつも
 『世とともに恋ひわたる人(娘)の形見にも思ひよそへつべからむ人をだに見出でてしがな』
と思っていた。「娘の形見になぞらえられるような人でも見つけ出したいもの」と言う意味である。桃太郎のおじいさんとおばあさんの心境に同じである。初瀬詣でをした一番の目的は、彼女の母親の病気平癒であったが、もう一つの目的が、「亡くなった娘の形見でも・・」と祈ることだった。しかも彼女は初瀬で、「本願がかなう」夢まで見ている。宇治は、京から初瀬に行く時の中継地で、長谷観音の霊が色濃く漂っているところだ。そういうところだからこそ、尼君の本願が叶えられたというわけである。
 その後、尼君は、浮舟を自分の娘以上に慈しみ育てるようになる。
 このように浮舟と尼君が唐突のように宇治で結びつくについては、それなりの根拠が用意されているのである。

 また、尼君の住まいが小野であることも、また彼女の兄を横川僧都としたことも、物語に深みと真実味を持たせるための周到な用意なのである。
 横川僧都といえば、当時の人々は、即座に恵心僧都源信を思い浮かべる。源氏物語の横川僧都は、この源信がモデルになっている。源信は『往生要集』の作者で、この世の愛欲・物欲・権勢欲などから起きる悪業を去り、極楽に往生すべき道を人々に示した。この著が、後に法然が生まれ親鸞が生まれる因縁となり、浄土宗が確立されていく基になった。
 源信という人は、まことに融通無碍(むげ)の人で、せっかく授かった「僧都」の位を翌年には返上してしまった。また金銭財物にも恬淡(てんたん)としていた。それは彼の母親の教えなのである。
 ある時、源信が内親王の法華八講に召されて、そのお礼としてもらったものを母親に「初めての頂戴ものです・・」と言って贈ったところ、母親は
 「あなたを僧にしたのは、そんな高貴な方に出入りさせるためでも、高い位につかせるためでもありません」
と言って叱ったという(今昔物語)。

 浮舟は、好色な男・匂宮とのどろどろの愛欲の世界から逃れるために、宇治川に投身自殺したが、未遂に終わってしまった。次に彼女がすがるものは仏しかない。そこで、この世のすべての絆から解放されようとするのだが、そこに融通無碍の横川僧都が重大な働きをするのである。
 出家するということは、この世のすべての絆を捨てることである。つまりそれは実の母以上の慈愛を浮舟に注ごうとしている尼君の慈愛をも断ち切ることである。横川僧都という自在の精神の持ち主にして初めてできることである。
  
 また、小野は比叡に近い。尼君の母が高齢、病弱であった。兄・僧都がその比叡の横川に山籠もりしているので、老母に万一のことがあった時には、すぐ山を下りられる。実は初瀬詣でをしたのも母親の病気平癒であったのだが、あの帰途、宇治で老母は体調を壊し、僧都を呼び出した。兄妹で常に母を慮っていたのである。『夢の浮橋』の巻に
 『「夜中、あかつきにもあひ訪はむ」と思ひ給へ、(小野に)置きてはべる』
という僧都の言葉がある。ここにも母子の一つのありようを描き出している。
 そうして、小野であることのもう一つの意味は、浮舟がいつも「自分の存在を人に知られない所」を願っていたことに関係する。彼女は終生浮き舟のような漂泊を余儀なくされいた。小野は人里離れたところで、彼女が願い続けていたまさに「人に知られることのない適地」だったのである。

 さて、この横川僧都の融通無碍さは、何のかかわりもない一介の女に過ぎない浮舟のために、山を下りて祈祷をしてあげるというところにも表れている。そればかりではない。一品の宮の祈祷のために山を下りた際に、浮舟のことが心配になったのだろう。小野の屋敷に寄る。その時、浮舟は出家を願い出る。彼女の出家の意思が尋常でないことを感じ取った僧都は、妹尼が長谷詣でをしている留守に、浮舟の髪を切ってしてしまう。妹尼の思いさえ無視する非情さである。妹尼の思いよりも、悩める女を救うことが彼にとっては先決であったのだ。髪を切る役を仰せつかった阿闍梨はさすがに
 『几帳の帷子(かたびら)のほころび(穴)より、御髪を掻き出だし給へる、いとあたらしく、をかしげなるになん、しばし鋏をもてやすらひける』
のである。「あたらしく、をかしげなる」とは、浮舟の髪がもったいないほどに美しいということで、一瞬髪切ることを躊躇したのだ。それは横川僧都の思い出もあったはずだが、彼は浮舟の願いを優先した。
 帰宅した尼君が、浮舟の剃髪した姿を見て悲嘆にくれたのは言うまでもない。彼女は
 『臥し転びつつ、いといみじげに(哀しいと)思ひ給へる』
のである。しかし、母子の恩愛さえ断ち切らなければならないほどに、浮舟の生きる哀しみと苦悩の深さを、僧都は鋭く感じ取っていたのだ。

 源氏物語をお伽噺と比べようなどとは毛頭思わないが、源氏物語は、宇治で尼君が浮舟に出会うという偶然を通して、実の母子でない母子のあり方をあぶりだすとともに、小野の山里でなければならない必然性を丁寧に語っている。また、自在な精神の持ち主でなければなしえない浮舟救済の道筋を見事に描ききっている。それは、紫式部が常に神経質なほどに唐突、偶然な筋の展開には用心深いことを表しているのである。彼女が、読者から「なぜ?」「どうして?」という声が出ることを極端に恐れた結果である。


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