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源氏物語

源氏物語たより493

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    滑稽な万葉仮名  源氏物語たより493

  山常庭 村山有等 取与呂布 天乃香具山 騰立 国見乎為者 国原波 煙立龍 海原波 加万目立多都 怜可国曾 蜻(蛉)  嶋 八間跡能国者

  この妙な漢字の羅列は何かと言えば、万葉集の第二首目、舒明天皇の「国見の歌」で、これでも立派な歌(長歌)になっているのである。舒明天皇は、天智・天武天皇の父で、実在の人物である。この天皇以前の人物の歌も万葉集にはあるのだが、実際にその人の作であるかどうかは疑わしいので、この舒明天皇の歌をもって、万葉集では一番古いものとされている。ちなみに、万葉集巻頭を飾る歌は、
  「籠(こ)もよ み籠持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串持ち この丘に 菜摘ます児 家聞かな・・」
という明るく爽やかな雄略天皇の求婚の歌である。

  この奇妙な漢字の羅列こそが、「万葉仮名」と言われるもので、万葉集はすべてこのように漢字ばかりで記述されているのである。(詞書は漢文)
  さて、一体これはどう読めばいいのだろうか。まずその読みを上げておこう。
  「大和には、群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鷗立ち立つ うまし   国そ 大和の国は」
  とにかくよくここまで漢字を並べたものだと思う。日本語の「音」「訓」に当たる漢字を勝手放題に借りている。古代人の奔放な、それでいてユーモアに富んだ工夫も感じとることができる。
  それでは「山常」がどうして「大和」になるのだろうか。「山」はとにかくとして、「常」がどうして「と」と読めるのだろうか。よくよく考えてみれば「常」は、確かに「常盤」とか「常夏」で「と(こ)」と読むことがある。
  それにしても「やまと」には歴然とした「大和」や「倭」があるのにどうしてそれを使わなかったのだろうか、不思議である。「村山」も、「群山」があるのにわざわざ「村山」にしている。彼らは一体何を考えていたのだろうか。
  滑稽なのは「庭」である。これは「に」と「は」という二つの助詞を一緒にして、日本語の訓の「庭」を当ててしまった。「取与呂布」などは、訓(取る)と音(与、呂、布)をごちゃまぜにしている。「とりよろふ」の意味ははっきりしていないそうであるが、「近くにある」と言うニュアンスに近いようなので、「都の近くにある香久山」ということになる。
  「煙立龍」も傑作である。「立つ立つ」でいいのに、わざわざ「龍」を使っている。これは同じ漢字を使いたくないというこだわりか、洒落か、あるいは美的センスから変えたものかもしれない。あるいは「龍のように煙が上り立つ」と言いたかったのかもしれないが、いささか意識過剰のように思われる。
  「怜可」の「可」には、実は立心偏(忄)が付くのだが、パソコンにない字なので、かりに「可」にしてみた。この「怜」は、「怜悧(れいり)」などに使われ、「心が澄んでいて賢い」という意味で、これを「うまし」と読んでいる。大和の国がいかに素晴らしいところであるかということを褒め讃えているのだ。
  「蜻(蛉)嶋」がまた面白い。「蜻蛉」とはトンボのことで、トンボを別に「あきつ」という。日本の国のことを「秋津嶋(国)」と言うのは、
  『そらみつやまとの国をあきずといふ』
などと古事記などにも出て来るところである。
 
  この他には漢文的に漢字を使用しているものも多い。例えば「不見(見ず)」「不寝(寝ず)」あるいは「将見(見む)」「雖照(照らせども)」「可死(死ぬべし)」などである。 
  滑稽なものも数多い。「鶏鳴」を「あかとき」などと読んでいるのはその代表であろう。鶏が鳴けば確かに朝(暁)である。「随意」を「まにまに」などと読むのも傑作である。「風流」を「みやび」と読んだり「落黄葉」を「もみぢば」と読んだりするのは、現代人にもできそうである。
  「恋」を「孤悲」と当てているのなどは、その苦労のほどが知られて、涙が出る。確かに恋は、孤独(一人)に悲しむことが多い。また「猿」のことを今でも「まし」と言うが、これを助動詞の「まし ~昼ならましかば~」に使っているのなども、猿には名誉なことである。詳しく探してみれば、「鹿 ~貴女しか~」や「馬 ~美味し~」や「牛 ~憂し~」なども見つかるかもしれない。

  万葉集の編者についてははっきりしていないようだが、大伴家持が絡んでいるとはよく言われるところである。ただ、これほど自由奔放に幅広く漢字を活用するというのは、とても彼一人の撰ではなかろう。大勢の者が知恵を絞って出し合い、「おお、それがいい!」とか「いや見事な漢字の当て方!」などと、喧々諤々(けんけんがくがく)編集していたのだろう。その努力や奮闘の汗が偲ばれて可笑しい。いや、ひょっとすると彼らは楽しみながらやっていたのかもしれない。

  「たより489」とダブルのだが、万葉仮名には、「よろふ」に「与、呂、布」というように漢字の音を借りてきていることが多い。ただ一音に当たる漢字は、限りなくある。たとえば「い」に当たる漢字を上げてみると、
  「井、以、伊、衣、位、囲、委、易、為、移、胃、偉、異・・」
と百以上に及ぶ。万葉集で使われている漢字は1000字を超えるという。これでは実用的でない。そこで次第に200字へ、100字へと絞り込んでいった。
  そしてこれらの文字の草体が、仮名になって行ったのである。「国見の歌」で見てみると、この中にも仮名の本になっている文字(字母)は多い。
  与~よ、呂~ろ、布~ふ、乃~の、具~く、見~み、者~は、波~は、加~か、多~た、万~ま、曾~そ、八~は、能~の
と言う具合である。この仮名の発見で、煩雑な万葉仮名は次第に使われなくなり、いつか全く消えてしまった。

  ところで、私が源氏物語を読む時の参考にしているものの一つに、角川書房の『源氏物語評釈』がある。その著者・玉上琢哉は、何度も
  「紫式部は万葉集を直接には見ていない。みな『古今六帖』から取ったものである」
と言っている。『古今六帖』とは、「平安中期(に)成立(したも)の。・・万葉集から後撰和歌集ころまでの歌約4500首を、6帖25項517題に分類した作歌の手引書(日本歴史大事典 小学館)」で、後の歌人が盛んに参考にした、いわゆる歌人のバイブルである。もちろん紫式部もこれから多くを引いているだろうが、そうかといって「万葉集は見ていない」と言い切れないのではなかろうか。
  なぜなら、紫式部ほど、もの・ことに対して意欲・関心の強い人はいないからである。また紫式部は、古典籍をまことに精力的に使っている。中国の史記や唐詩、あるいは日本の漢詩なども自家薬籠中のものにしている。中でも多く引用しているのが古今集で
あり、さらに彼女の知識の幅は、催馬楽、仏典にも及ぶ。
  万葉集は数こそ少ないものも、何首か引用している。そのうちの多くは古今六帖にも収録されているものだそうだが、古今六帖に載ってないものもあるという。いずれにしてもあの紫式部が、直接万葉集を見ていないとは到底思えない。
  確かに万葉仮名は読みにくい。しかしある程度馴れてくれば素人でも読めそうな気がするのだから、あの紫式部が読めないはずはない。彼女は漢学の力も親が驚くほどで、彰子中宮に『白氏文集』を進講するほどの実力者である。万葉仮名などは彼女にとってはいとも容易(たやす)いことであったろう。
  それに、なにしろ物語のその場その場面に最も適した歌を引用するために、彼女はまことに貪欲であった。そのためにはどんな障害があろうとも、まったく苦にはしなかったはずである。
  それに、先に見たように万葉仮名のあのセンスやユーモア、あるいは洒落は、紫式部好みではなかったか、興味を寄せないはずはないのである。
  問題なのは平安時代に万葉集がどのような形で流布していたかということである。もし「お蔵入り」のようになっていて、人々が見ることができない状態にあったとすれば、彼女ならずとも、手の施しようがなかったのだが。

  私は、源氏物語には、万葉集が比較的に少ししか引用されていないのは、二つの世界が違うからではないかと思っている。万葉集は、感情が率直で力強く、素朴でのびのびした歌風であり、また力強く重厚なものが多い。後期の歌には、繊細で感傷的なものも多くなってはいるが、それでも源氏物語の世界とは一線を画するものである。源氏物語が追い求めたものは「あはれ」の世界である。万葉集とはほど遠い世界と言うしかない。


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