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源氏物語

源氏物語たより519

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     『隆能源氏』の凄さ   源氏物語たより519

  源氏絵を見るのが楽しい。源氏物語の内容が頭に入ったので、どの巻にどのようなことが書かれているか分かってきた。したがって最近では、源氏絵を見てもその絵がどの場面を描いたものか概ね見当がつくようになった。
  1008年には、「源氏物語千年紀」をうたって、各地で様々な催しが行われた。横浜の市立美術館では源氏絵の展覧会を行われた。膨大な数の源氏絵が各地から集められていて、見て回るのに骨が折れるほどであった。
  あの時、残念に思ったことがある。それは絵を見てもどの場面の絵であるかが分からなかったことである。源氏物語を学び始めて日が浅かったからだ。それに「くずし字」も読めなかった。それぞれの絵には巻の名前が書かれていたりするのだが、それが読めないのだから悲しい限りである。その後、くずし字も学んで、今ではどんな古筆切(書画などの故人の筆跡の小片 例えば高野切など)でも、特別癖がない限り大体読めるようになった。ということで、もう一度「源氏物語千年紀」がやって来ないものかと思っている。

  それにしても、源氏絵と言えば、やはり「国宝 源氏物語絵巻」であろう。一般に「隆能源氏」と愛称されるが、この絵巻は単に古いから価値があるというのではない。それぞれの場面を見事に捉えた迫真の勢が溢れているから、掛け値なしに「凄い」のである。それは、この絵巻の作者が、源氏物語を完璧に読み取り、物語の内容・主題を的確、適切に把握しているところからきているものと思う。

  私が、実物を見たのはたった一度だけで、それは東京の五島美術館の四枚の絵である。名古屋の徳川美術館にも二度行っているが、特別公開の時ではなかったので、二度とも実物を見ることはできなかった。徳川美術館は、「隆能源氏」に尽きる。その他には徳川家にかかわる鎧や刀剣がたくさん展示されているだけで、(私にとっては)興味あるものはなかった。
  源氏物語の絵は、平安時代以降、各時代を通じてすぐれた作品が生み出されているが、特に江戸時代には量産され、数多く今に残されている。鎌倉、室町時代にも多くの源氏絵が描かれたのだろうが、度重なる戦乱などで焼失してしまったのだろう。
  面白いことは、それぞれの巻で絵の題材にされている場面が決まっていることである。例えば、『葵』の巻では、葵上と六条御息所の車争いが、『夕顔』の巻では、五条の大路のほどもない屋敷から、夕顔の花を載せるべく扇を持って出てきた女童とそれを受け取る供人が、また『浮舟』の巻では、雪の宇治川を恋の道行をする浮舟と匂宮が、という具合である。おそらく「この巻はこの場面を書きなさい」というような暗黙の決まりのようなものがあったのかもしれない。歌を作る時には『古今六帖』を使ったように。
  桃山~江戸時代のものには土佐派(土佐光吉、光則、光起など)の作品が多い。土佐派の絵は、概して非常に細密で、明るく華やかである。それに比べて、狩野探幽や俵屋宗達の源氏絵は重厚な感じがする。
  ただこれらの絵には、内容に合っていない箇所がしばしば見えて、「あれ、この絵師は実際に源氏物語を読んでいるのかしら?」と疑ってしまうことがある。例えば、物語では上弦の月のはずなのに、下弦の月が描かれていたり、大人のはずなのに、童子が描かれていたりするのだ。だが、それもまた面白い。「間違い探し」の感覚で見ることができるからである。

  「隆能源氏」の凄さは、物語の内容を見事に捉えていることである。時には源氏物語を越えるほどの意味付けをして、迫真、渾身の力をもって描いている。やはり「国宝」に値するだけはあると思う。もちろん間違いなどはほとんど見つからない。
  そのいくつかを上げてみよう。
  死も間近くなって病床に臥している柏木を、夕霧が見舞う場面の絵は、二人の哀しみがジワリと伝わって来るだけでなく、周囲に侍っている女房たちの悲嘆にくれる有様が胸を打つ。(柏木の巻)
  薫の五十日(いか)の日に、女三宮と柏木の不義の子(薫)を抱く光源氏の困惑した様は、見るものに人生のままならぬ宿縁を強く印象付ける。(柏木の巻)
  落葉宮の母から夕霧に届いた手紙を、後ろから忍び寄って太い手をにゅっと出し、奪い取ろうとしている雲居雁の姿は、彼女の夕霧に対する憎しみ恨みが如実に出ていて、まるで「鬼」を思わせ身の毛がよだつ。(夕霧の巻)

  中でも、土佐派の絵などとは圧倒的な相違があるのが、『蓬生』の巻の絵である。
  源氏は公から許されて京に復帰する。帰京後は公私ともに忙しいし、紫上との再会に心も空で、他の女の所を訪れることなど思いもよらないことであった。ましてあの末摘花などは、源氏の意識から完全に欠落していた。
  帰京して半年以上たった夏のある日、彼は久しぶりに花散里を訪ねようと思い立つ。大路を車を走らせていた時に、大きな松の木に藤の花が咲き懸かっている景色が目に入った。物見窓から顔を出してさらによく見ると、いつか見た記憶がする景色である。
  「ひょっとすると末摘花の邸ではあるまいか」
と思って、惟光に確認させる。
  惟光は邸の中に入って行くが、それでなくても荒れていた邸は、この四年の間に、蓬、葎で覆われてしまて道さえ定かでない。人の気配もしないので、戻ろうとした時に、
  『格子二間ばかり上げて、簾動く気色』
が目に入った。なんとそこにいた人こそ、末摘花であったのだ。彼女は昼寝に故父宮の夢を見て、日ごろとは違って、珍しく廂の間をきれいにさせ、その端に座を設け、そこで故父宮を偲んで外を見ていたのだ。もし日頃のように部屋の奥に引き籠っていたら、惟光は源氏の所に戻って、
  「誰もいないようでございます」
と報告したはずである。故父宮の夢が源氏との再会の縁になったのだ。
  源氏は惟光を伴い邸の中に入って行く。その様子は
  『御さきの露を馬の鞭して払ひつゝ、(源氏を)入れたてまつる。雨そゝぎも秋の時雨めきて、うち注げば・・御指貫の裾は、いたうそぼちぬ』
というひどさである。
 
  この場面を描いたのが、かの名作「蓬生」の絵である。この絵を見て、まず目に飛び込んでくるのが、ほとんど朽ち崩れてしまった簀子である。簀子の台柱は倒れ、板はここかしこに穴が開いて目も当てられない惨状。
  画面中央は、一面の蓬、葎。この絵の最大の特徴は、中央を広々と葎、蓬に占領させ、両端に人物を配するという大胆な構図である。現代絵画でも及ばない技法と言える。
  左端には、手に馬の鞭を持った惟光が、蓬・葎の露を払いつゝ、源氏を先導している。その後ろから源氏が付いて行く。彼の横顔は、無表情ではあるが気品にあふれている。源氏の烏帽子の上には、白丁(傘持ち)が捧げる大きな傘が差し掛けられている。さらにその傘の上には、先ほどの松に絡まる藤の花が、ぼんやりと見える。
  右端には、崩れた簀子の奥のぼろぼろになった簾を透かして、廂の間に女が見える。顔つきは比較的に若々しい女だが、この邸には老女房しかいないはずである。表情はにこやかであるから、あるいは源氏の来訪を喜んでいる侍従の母かもしれない。
  この絵は、「蓬生」の巻の急所を見事に捉え、完膚なきまで描き切っている。

  ちなみに土佐光吉(桃山時代)の同じ場面を見てみよう。
  この絵の第一印象は、「明るい!」ということである。松も藤も、蓬も薄も、すべてが鮮明で、金泥の間(あわい)に華やかに浮き上がっている。簀子は最近建造したばかりというほどに一点の傷も染みもない。勾欄もいかにも頑丈そうで、大男が寄りかかっても微動だにしそうもない。格子などは黒々としていて、昨日ペンキ屋さんが来て塗ったばかりとまがうほどにつやつやと輝いている。
  ここには人物が三人、几帳面に描かれている。先頭の惟光は、蓬の間から邸の中を垣間見でもしているような興味津々たる顔をしている。源氏は、さすがに一抹の不安を覚えるのか、足をそろえてためらいがちである。その後から白丁が、派手な赤い傘を差し掛けている。
  この絵からは、末摘花邸の「荒れ」などは微塵も感じられず、とにかくすべてが明るい絵で、微笑ましくさえなってしまう。
  源氏が女を訪ねるのは夜に決まっている。この夜は雨上がりで、月が出ていたとはいえ、こんなに藤の花が一房一房鮮やかに見えるはずはない。末摘花の惨憺たる生活状態を表現するためには、ルックスを10ワットくらいに落とさなければなるまい。

  これらの源氏絵を見るにつけ、改めて「隆能源氏」の凄さ、類なさに感嘆せざるを得ない。


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