源氏物語

源氏物語たより36

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  光源氏は変態? 源氏物語たより36

 『蛍』の巻に何とも不可解な話が載っている。蛍の光で姫君を他の男に見せようというものだが、そんなことが可能なのだろうか。


 光源氏は、いつもわりない(わけが分からずどうしようもない)恋ばかりしている。三十三歳の太政大臣になった今もそうだ。夕顔と頭中将(今は内大臣)の間の子供である玉鬘を見つけ出し、父親の頭中将にも知らせず、自分の養女分にしてしまった。そして、いかにも親らしく振る舞う一方で、玉鬘の美しさと心根の好さに引かれ、わりない恋心を抱いてしまい、隙あらばと狙っている。
『お手をとらへたれば・・肌付きの細やかに美しき』
に感動してみたり、
『御髪をかきや』
って愛撫してみたり、
『琴を枕にして、もろともに添い臥し』
てみたりと、やりたい放題。
 しかし、さすがにそれ以上のことは自重しつつ、うじうじ自分を持て余している。
 そんな思いの中にも、若い玉鬘である、他の公達に紹介しなければいけないとも考える。

 ある時、源氏の弟にあたる蛍兵部卿の宮に、玉鬘を会わせようとする。そして、もくろんだのが「蛍作戦」である。
 四月の新月の夕やみすぎる頃、宮を六条院に呼び、妻戸(開き戸)口の廂の間にお通しした。几帳(外から見えないようにした隔ての道具)を隔てた向こうの母屋には玉鬘がいる。宮は、女房を仲立ちにして何とか玉鬘と話をしようとするのだが、玉鬘はつつましく振る舞っていて、二人の仲はなかなか進展しない。
 そんな時である、
 『寄りたまひて、御几帳の帷子をひとへうちかけたまふにあわせて、さと光るもの、紙燭をさし出でたるか、とあきれたり。蛍を薄きかた(布)に、この夕つかた、いと多く包みおきて、光をつつみ隠したまへるなり』
 源氏が寄ってきて、帷子(かたびら 几帳に垂れ下げてある布)を一枚さッと几帳の上の横木に引き上げたのだ。すると蛍が一斉に飛び出し、あたかも紙燭(手持ちの明かり)がさし出されたように明るくなった。この夕方、源氏は多くの蛍を薄い布に隠しておき、それを引き上げたのだ。
 几帳の向こうには、すらりとした肢体の姫君が添い臥しているではないか。それが宮の目にほんのりと飛び込んできた。その美しい姿に宮は一層恋心を燃やすのだった。趣味人である宮の心を、源氏は、風雅な行為で煽ってみたかったのだろう。
 しかし風雅どころか、何とも嫌らしい度を過ぎたいたずらである。36歳の男のすることではない。変態と言われても仕方がない行為だ。

 ところで、蛍の光で暗い部屋の中が見えるものなのだろうか。
 中国の故事に『蛍の光、窓の雪』がある。晋の車胤が、貧乏なために灯火の油が買えず、蛍をたくさん集めてきて、その光で勉強をしたという有名な故事である。
 「窓の雪」で勉強するというのはまだ理解ができるが、蛍の光で書物など読めるだろうか、首をかしげざるを得ない。
 子供の頃、よく蚊帳の中に蛍を飛ばして、ほわほわと光る光を楽しんだものだ。また、ホタルブクロの花の中に蛍を閉じ込めてみたりしたこともある。ほんのりと花の中が透けて見えた。蛍の光の情緒を、子供心に楽しんだのだが、あのほわほわな光では、なん百匹集めても本など読めるとは思えない。
 もっとも南洋のどこかの国には、強い光を放つ蛍がいるそうだが、どれほどの光なのか知らない。もし本を読めるほどの光を放つ蛍がいるのだとすれば、節電の時節、大いに持てはやされることであろうが、そんな話は寡聞にして聞かない。それに、蛍の光は常に明滅していて常用していると、目をやられる。
 いずれにしても勉強用には無理だ。なぜなら、毎晩、毎晩、蛍を捉えてくるのでは、とても勉強などしている暇がないからだ。
 それに、寝殿の中は恐ろしく暗い。部屋の隅の鴨居にはしばしば物の怪が現れたという。しかも、この時は四月の新月のころだ。真っ暗闇で、何も見えない。昔の人は、目が良かったようだが、それにしても、几帳の向こうに臥している女が、すらりと伸びた肢体で、とても美しかったなどと見定めることは無理である。

 ところが、どういうわけか、これと同じような話が『伊勢物語』や『宇津保険語』にも載っている。伊勢物語のものは、ある帝の娘が19歳と言う若さで亡くなってしまったその葬送の時の話である。ある男が、その葬送の様を見ようと、女の車に乗って出かけた。すると、その車を女車と思った色好みの男・源至(みなもとのいたる)が、車の中を見ようと、蛍をたくさん集めてきて車の中に放したというものである。この話では中の女が見えたかどうかは書かれていないが、そんな至の行為を戒めた評があるだけだ。
 源氏の行為に対しては、物語ではこんな批判をしている。
 「(実の自分の娘ならば、こんな大騒ぎをすることはあるまい)『うたてある親心なりけり(なさけない親心である)』」
 こんな行為をするのでは、とても太政大臣の資格はない、心ある男のすることではないのだが、それでも源氏が、「変態」とも言われずに愛され続けているのは不思議なことだ。ひょっとすると、彼はひたすらの色好みの男というのではなく、また権力に固執する男でもなく、このような子供っぽい遊び心があるからだろうか。
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