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源氏物語

源氏物語たより584

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     可笑しみの連続   源氏物語たより584

  『雨夜の品定め』の翌日、光源氏が、紀伊守の所に方違えをした場面に、滑稽な描写が頻出していることを、「たより579」で取り上げたが、それは『雨夜の品定め』における女性論への源氏の強い関心と、その緊張から解放された源氏のはしゃいだ気持ちの表れではないかと述べた。
  ところが、滑稽な描写はまだまだ続いていて、『空蝉』の巻にまでも至っているのである。
  それではそれらを箇条的にあげてみよう。

  それではまず、『帚木』の巻の最後に描かれている源氏の二度目の方違えについて見てみよう。もちろん紀伊守の邸への方違えである。この場面もかなり可笑しい。
  『内裏に日数経(へ)給ふころ、さるべき方の忌(いみ)待ち出で給ひて、にはかにまかで給ふ真似して、道のほどよりおはしたり』
  「さるべき方の忌」とは、内裏からは二条院(源氏の家)や左大臣邸(妻・葵上の家)の方が塞がっている時ということで、彼はそういうチャンスがくるのを、日にちを数えて待っていたのだ。それほどに空蝉に逢いたかったということで、この間は近衛の中将も仕事などは上の空だったのであろう。
  そして遂に待望の日やって来た。彼は、内裏から左大臣邸に行く振りをして、途中で道を紀伊守邸へと変えてしまったのだ。
  急な源氏の御入来に紀伊守は、
  『遣水の面目』
と喜ぶ。何とも皮肉な喜びである。実は源氏が最初ここに尋ねてきた時の一つの理由が、紀伊守邸の遣水だったからである。供人が源氏にこう勧めていた。
  『中河のわたりなる家(紀伊守邸)なん、この頃水せき入れて、涼しき陰に侍る』
  「紀伊守邸は、最近中河から水を引き入れて、遣水がなかなか涼しい陰を造っていますので」と勧めたのである。それに対して  源氏は
  『いとよかなり』
と喜んでいた。あの遣水がここで生きてきたのだ。紫式部のそつのなさは随所に発揮されるのだが、こんな些細なことまで、後に見事に生かしているのである。
  問題なのは、源氏の紀伊守邸訪問の真意が、紀伊守の「面目」とはまるで違うということである。源氏の念頭には、紀伊守を喜ばそうなどと言う意図は毛頭なく、遣水など問題外なのである。空蝉一筋だというのに、紀伊守の独り合点が笑いを誘う。
  ところが、この二度目の逢瀬は、空蝉の企みによって失敗に帰してしまう。
  
  しかし、それで諦めるような源氏ではない。さらに三度目の逢瀬に挑む。今度も例の小君を使うことにした。小君とは、空蝉の弟のことで、源氏が、空蝉に逢うための道具にしようと、手なづけていた十二、三歳の童である。
  小君は、紀伊守が国に下って、女どもが和やかに過ごしている隙を狙うことにした。十二、三歳の童とは思えぬ目の付け所である。
  小君は、夕暮れのたどたどしいころ、源氏を邸に導く。門の錠が鎖される前に、また人に見とがめられることがないところから車を邸に入れた。小君は童なので、宿直人(とのいびと)は特に注意もしないで入ることができた。とはいえ、小さな童の後ろに隠れるようにして付いて行く源氏の姿を想像すると可笑しい。
  さて、小君は、寝殿の東の妻戸のところに源氏を隠すと、自分は南の隅の間に行って、格子を叩いて女房に呼びかけ、そこから忍び込む。源氏を案内すべく、まずは偵察にというわけである。小君がわざとのように大きな声で
  「こんなに暑い日にどうして格子など下しておくのさ」
と女房に声をかけている。と
  『昼より、西の御方(紀伊守の妹で、軒端荻)のわたらせ給ひて碁打たせ給ふ』
からだ、という答えが返ってきた。その声が、源氏の所にまで聞こえてくる。すると、妻戸の陰に隠れていた源氏が、のそのそと動き出した。そして先ほど小君が入って行った格子のところにまでやって来て、御簾の間に身を隠す。二人の女が碁を打っているところを垣間見ようという魂胆である。これでは小君の偵察など全く不用である。
  この垣間見は、源氏物語の中の「三大垣間見」と言えるほどの名場面なので、今までも何度も述べてきたところであるので省略することにするが、とにかく源氏が、二人の女を垣間見る目は微に入り細をうがつのである。特に軒端荻などは、まるで裸にされるほど詳細、鮮明に見られてしまう。
  小君が戻ってくる気配がしたので、彼はちゃっかり元の妻戸の所に戻る。源氏がまさかそんな行動を取っていようとは思いもしない小君は、源氏にこう報告する。
  『例ならぬ人(軒端荻)侍りて、え近うも寄り侍らず』
  「いつもはいない人がいるので、とても近寄れません」というのだが、そんなことは源氏は先刻承知なのに、「いかにも残念」という顔で小君に不満をたらたらとこぼす。そして
  『紀の守の妹も、こなたにあるか。我に垣間見せさせよ』
と言うのである。何とも呆れた言い草である。先ほど壁に穴が開くほど「紀の守の妹」を垣間見していたというのに。それに対して小君は真面目にこう答える。
  『いかでかさは侍らん。格子には几帳そへて侍れば』
  「どうしてそんなことができましょうか。そもそも格子には几帳が添えてあるので見えるわけがありません」というのである。源氏は、屏風が押し畳まれていたのも、暑いので几帳の帷子が横木に掛けられていたのもすべて承知なのである。だからこそあれほどあからさまに二人の女を垣間見することができたのだ。小君は完全に虚仮にされてしまった。先ほどの「遣水の面目」に対して、こちらの方が、源氏のお惚けに踊らされる小君が気の毒な笑いを誘う。源氏も困った人だ。
  このあたりの笑いは、「中将、召しつればなん・・」などに並んで、実に軽妙で、ユーモア作家・紫式部と言ってもよさそうな才能を感じさせる筆致である。 

  この後、源氏は空蝉の所に忍び込むが、失敗に終わる。源氏が侵入してきたのをいち早く感じ取った空蝉が、衣一枚を残して逃げてしまったからである。普通の男ならここで退散するはずなのに、彼はそうはしない。空蝉と同じ部屋に寝ていた軒端荻に食指を伸ばしてしまうのだから、呆れるしかない。しかもその言い訳が振るっている。
  『かのをかしかりつる灯影ならば、いかがはせむ』
  「あの垣間見の時に、灯影に見えた可愛い女ならば、それはそれでいいだろう」と言うのである。あの時、彼は軒端荻を
  『ねぢけたるところなく、をかしげなる人』
と見ていたのである。本命の女には逃げられてしまったが、これでも十分と思うわけである。作者もさすがにそんな源氏を
  『悪き御心浅さなめりかし』
と非難している。
  源氏の不徳な行為は、確かに作者の言う通り、婦女暴行にも当たる極悪さである。しかし先ほどの垣間見がその罪を軽げてしまっているのだから不思議なことである。読者も、源氏を悪者とは思わず、むしろ笑いを持って源氏の行為を眺めることができるのである。なぜなのだろうか。それは垣間見をしながら、源氏が軒端荻を徹底的に褒め上げているからである。
  「色が白く、身体全体がふっくらしていて肉感的。頭の形も鮮やかで、髪はふさふさ。肩の所の髪は大層清らかである。それに素直で可愛い。また愛嬌があるし華やかで、匂うような艶めかしさも持っている」
という具合である。そしてついには、「やや軽薄なところはあるものの、容貌・容姿は、本命の空蝉よりも優れている」とまで言っているのである。天下の色男・源氏さまにこれほど褒められたのでは、軒端荻も幸せ者・・と読者も思ってしまう。
  あの垣間見が、決して無駄になってはいなかったのである。紫式部がそこまで計算していたかどうかは分からないが、とにかく紫式部はいつも用意周到である。

  この場面には、もう一つの笑いが用意されている。源氏が小君とこの邸をこっそり出ようとすると、運悪く一人の女房に出会ってしまう、という話である。源氏物語には珍しく、その女房が下痢を起こして、厠(?)に行くという下(しも)の話で、その女房の慌てぶりが滑稽である。だが、詳しいところは割愛することにしよう。なぜなら紫式部があえて源氏物語の中で省こうとした下の話(「あはれ」からは程遠い話)なので、それを無理に取り上げるというのも、紫式部に失礼に当たろうから。

  空蝉の話に、このように笑いが頻発する理由は、何故なのかよくは分からない。
  ただ、その後、空蝉は、徹底して源氏を拒否し続け、結局実らぬ恋に終わってしまう。源氏にとっては苦い経験になってしまったこの話は、実は彼にとっては唯一の恋愛の失敗譚なのである。ということで、色好み・光源氏の失敗譚をより印象付けるために、あえて全編に滑稽な話をちりばめたのではあるまいか、と私は思っている。


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