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源氏物語

源氏物語たより593その4

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     強姦か密通か その4   源氏物語たより593

  最後に柏木と匂宮についてみてみることにする。
  柏木が、女三宮(以下 宮)と契ったのは、賀茂祭に先立って行われる禊の日の前夜のことである。宮に仕える女房たちは、禊の供をする者がいたり祭りの見物をしようとする者がいたりしてそわそわ落ち着かず、宮の前は手薄になっていた。
  柏木は、宮の女房の一人である小侍従(柏木とは乳母子)に「何とか宮に会う機会を」と懇願していたのだが、小侍従はこの夜をその機会として選んだ。
  当初は、それほど近くで会おうとも思っていなかった柏木は、ただ、け近いところで自分の思いのたけを申し上げ、一言でもいいから宮のご返事をもらえればそれでもいいと思っていたのである。ところがその後の経過は次のように展開していってしまう。
  『やをら御帳(寝台)の東おもての御座の端に(小侍従は柏木を)すゑつ。・・宮は何心もなく大殿籠りにけるを、近く男の気配すれば、「院(光源氏)のおはする」と思したるに、うちかしこまりたる気色見せて、床の下に抱き下したてまつるに、「ものに襲わるるか」と、せめて(思い切って)見上げ給へば、(源氏では)あらぬ人なりけり』
  人を召し寄せようとしたが、女房たちは明日の祭りのことに一生懸命で、宮の御前には誰も控えていない。恐怖のためにわなわなと震え、汗は水のように流れ落ちる。

  この後、宮は、男がくどくどと弁解がらみのことを訴える話の内容から、「柏木その人である」と気づく。一方の柏木は、宮が思っていたほど気高い女性ではなく、むしろ人の心を惹きつける可愛くしかもなよなよとしていられる雰囲気に、自制する気持ちも失って、ついに契りを結んでしまう。
  これは今井源衛が言うように、弁解の余地のない「強姦」である。したがって「契りを結んでしまう」などと言うような生ぬるい表現は当たらない。まして「密通」などではない。「密通」には、両者にある程度の合意があることが条件になるのであるが、この場合はそれが全くない。犯罪以外の何物でもない。
  そして肝心なことは、行為の後の宮の反応である。宮は終始柏木に対して拒否的なのである。彼は、言葉を尽くしてあれこれと自分の思いを訴えるとともに、驚き慄く宮を慰めもするのだが、
  『宮はいとあさましう、現ともおぼえ給はぬに、胸ふたがりておぼしおぼぼるる』
しかなく、まして夫・源氏のことを思うと口惜しく悲しく心細く、幼げに泣く以外にないのである。
  源氏が、空蝉を犯した時も、同じような情況ではあるのだが、行為の後の女の反応がまるで違う。空蝉も源氏を拒否しているには違いないのだが、心の奥底では、「夫のある身でなければ・・」という、ある意味、源氏に心惹かれ心情もあり、許すという余地さえあった。宮の場合は、それがまるでないのである。
  そもそも源氏の口説の巧みさは、誰に真似のできるものではないし、その容貌の美麗さあtりや、「光り」と譬えられるほどなのである。柏木とは月とスッポンである。現に、宮は、夫・源氏に比して、柏木の人となりをこう評価し侮っているのである。
  『院をいみじく怖ぢ聞こえ給へる御心に、(柏木の)有様も人のほども、(源氏と)等しくだにやはある。(柏木は)いたくよしめき、なまめきたれば、大方の人の目にこそなべての人にはまさりて愛でらるれ。・・(源氏を見慣れている宮の眼には、柏木などは)めざましうのみ見え給ふ』
  「めざまし」とは、「心外だ、気に食わない」という意味で、柏木などは世間での評価はそれなりにあるようではあるが、宮の目からすれば「問題外の男、心外な男」にしか映っていないのである。

  私は、「たより588、589,590」で、源氏の 空蝉や朧月夜などに対する行為は必ずしも「強姦」の枠には当てはまらないと言ってきた。それは、行為の後の女の反応も含めて考える必要があると思うからである。確かに源氏の行為は強引すぎるもので、現代的にはとても許されることではなく、「強姦」と言われても仕方のないことであるかもしれない。しかし、男と女の仲などというものは、いずれにしも男の強引さから始まるのではなかろうか。そうでなければことは進まないし、男が誰も彼ももじもじばかりしていたのでは人類が滅んでしまう。
  柏木の場合は、源氏のような事後のフオローの要素が欠けている。全くの独りよがりで、相手(宮)は男の「よがり」の蚊帳の外にいるだけで、情状酌量の余地はない。
  ただ、不思議に思うことは、あの夜、柏木が宮に歌を詠み掛けると、彼女が返歌していることである。心底から男の行為を恨み憎んでいるのであれば、返歌などするはずはないのに。また、あの後も二人は何度か逢っているというのも不可解なことである。これでは「密通」ないしは「逢引」になってしまって、柏木の行為そのものが許されてしまはないか。考えられることは、恐らく
  『ひたおもむきにもの怖じし給へる(宮の)御心』
に付け入った柏木が、「会ってくれなければ源氏様に訴える」とでも言って威していたということであろう。

  それでは、匂宮はどうだろうか。今井源衛は匂宮のことを
  「強姦の常習犯」
と言っているのだが。
  彼は、源氏の血を濃く引いているようで、女については凄まじいほどに執拗である。気に入った女房がいると、その実家まで押しかけて行ってものにしてしまうと言う。
  薫から、宇治に隠棲している八の宮(源氏の弟)の娘が、大層美しいと聞いた匂宮は、何とかして自分のものにしようとして、ある夜、薫と謀って中宮と契ってしまう。この時の謀(はかりごと)は許されない。薫に身を変えて、中君の部屋に忍び込んでしまったのである。男二人による計画的暴行ともいえる見苦しい手段である。
  でも、匂宮は、中君と正式に結婚している。今上の第三皇子ともあろうお方が、三日間、几帳面に宇治へ通っているのである。中君も彼の魅力に次第に惹かれていく。最初の手段こそ卑劣といえるものではあったが、自分の行為には責任を果たしているのだから、強姦には当たるまい。

  浮舟との関わりがまた凄まじい。浮舟は、薫の正式な妻になっていて、薫によって宇治に隠し置かれていたのだが、嗅覚の鋭い匂宮が探し出して契ってしまう。通常なら「強姦」ということになるだろうが、これも単純には結論付けられない。
  匂宮は、薫と浮舟が結婚する以前に、既に会っているのである。その会い方も極めてドラマチックである。中君が、腹違いの妹・浮舟の苦境を見かねて一時自分のところ(匂宮の邸)に預かることにした。ところがなんという因縁であろうか、匂宮がこれを見つけ出してしまう。見慣れぬ娘(浮舟)がいることに気付いた匂宮は、彼女の所につかつかと歩み寄り、乳母たちが見ているにもかかわらず
  『馴れ馴れしく(浮舟の横に)臥し』
てしまう。この時の彼の行為が、浮舟の心に微妙な変化をもたらしていたようである。宇治で匂宮に「強姦」された浮舟は、彼の官能的・情熱的な扱いに、夫に対する不義密通であるもかかわらず、かえって宮への恋心を深めていってしまう。
  こうなると、明らかに強姦とはいえない。

  今井源衛は、源氏や匂宮の行為を「強姦」であると強調したいがために、彼らのすべてをその枠の中に押し込めてしまった。持論を展開するに急で、やや勇み足になってしまった気がする。彼のもう一つの書『源氏物語の研究』(未来社 今井源衛の代表作で、やや難しい)の中では、在原業平などの高貴な生まれの昔男たちは
  「多くの女と奔放な恋を重ねながら、その個々のケースでは、いやしい漁色とは違った愛情と誠意とを貫いて行動している。・・・・源氏物語の主人公もまたこういう王統源氏の一人であり、さらに「光」という套語(常套語)を冠せられることによって、それが当時の理想的典型であることを示したものであった」
と言っている。先の書(「源氏物語への招待」)とは大分ニュアンスが違う。光源氏の行為が強姦とか漁色という言葉では縛れないのはこのあたりにあるのだろう。
  源氏は単に美貌であるだけではない。余人がとても真似のできない卓越した弁舌能力、薀蓄に富んだ深い論理、磨き抜かれた諸道の技、いったん関係した女はとことん最後まで世話する気長さなどがあるからこそ、読者は彼の行為を咎めないのだ。柏木にはこれが欠落しているし、匂宮は源氏に劣らない能力を持っているのだろうが、悲しいかな副主人公であるが故に、源氏ほどにはそれが語られていないので、「漁色」の印象を免れない。
  光源氏の恋は、「あはれ」を追求する遥かなる旅であって、通人が好む魚色とは次元が違う。それ故に、後の読者に圧倒的に支持されたのであろう。この点を見落としてしまうと
  「どうせ源氏物語は、源氏という男のねちねちとした色事を扱った物語であろう。だから俺は源氏物語が好きになれないのだ」
と言うような浅薄な評価に陥ってしまうのだ。「更級日記」の作者・菅原孝標の娘の言葉を再掲しておこう。
  『物語にある光源氏などのやうにおはせむ人を、年に一たびにても通わし奉りて・・』


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