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源氏物語

源氏物語たより594

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      廃院への道筋   源氏物語たより594

  光源氏は、夕顔を死に至らせてしまうような危険な逢瀬をなぜ強行しなければならなかったのだろうか。無理に彼女を廃院に連れ出したがために悔いても悔いきれない結果を招いてしまったのだ。
  この件については「たより239」でも既に取り上げているのだが、改めて別の面から詳しく考えてみることにする。

  廃院に連れ出さなければならなかった第一の理由は、彼女としんみりと語り明かしたかったということであろう。物語の上では
  『息長川と契り給ふよりほかのことなし』
と表現されている。これは、万葉集の次の歌を引いたものである。
  『鳰鳥の息長川は絶えぬとも 君に語らう言尽きめやは』
  「息長川(おきなががわ)」は、水が枯れてしまって絶えてしまうようなことが決してない川だという。歌全体は、
  「息長川の水がたとえ絶えてしまったとしても、あなたとの妹背の語らいは、いつまでも決して尽きることなどありません」
という意味でなる。源氏は、夕顔と二人きりでいつまでもいつまでも語り続けていたいということ、つまり決してあなたと別れることなどありませんと永久(とわ)の妹背の契りをしているのである。

  「鳰鳥(にほどり)」とはカイツブリのことで、日本の湖沼でよく見られる水鳥である。琵琶湖のことを「鳰の海」というのは、この鳥がたくさんいるところからつけられたものであろう。この鳥の特徴はいろいろあって、日本にいるガン・カモ科やカイツブリ科などの水鳥の中では一番小さく、浮巣と潜水で知られている。浮巣とは、枯れ葦などで巣を作りそれが水に浮いているように見えるからである。また、この鳥は雛が孵(かえ)った後の何日間か、雛を自分の背に乗せることでも知られている。
  その小ささと尻尾がなく目のくりっとしたところが誠に愛くるしく、見る者の心をほのぼのとさせる。
  この歌は、鳰鳥が潜水が得意なところが「息が長い」ことに繋がり、いつまでも水が絶えることのない「息長川」の枕詞になっているのだが、源氏がここで引いるのはそれだけなのだろうか。私は、カイツブリが夕顔のイメージに重なるからではないだろうかと思っている。夕顔の人となりは
  『細やかに、たをたを(しなやか)』
  『児めかし(あどけなく子供らしい)』
ところである。また、彼女が亡くなった後、源氏は
  『けぢかく、なつかしかりしあはれに、似るものなう恋しく思え給ふ』
と偲んでいる。「けぢかく」も「なつかし」も「あはれ」も、いづれも人の心をとらえて離さず、愛おしく思う意味を持っている。こんな女性(水鳥)とだったら、いつまでもいつまでも語り(見)続けていたいということだ。とにかく今まで源氏と関係してきた女性方は、葵上にしても六条御息所にしても、みな気位が高く「うるはしき」女性で、襟を正さなければ付き合えない人ばかりであった。夕顔のように心を和ませる女性は、源氏は初めてである。

  しかし、しんみりと語らうには夕顔の屋敷はあまりにも狭く、雑然としていた。本文には
  『見入れの程なく、ものはかなきすまひ』
とある。当時これが庶民の住まいとしてはごく一般的だったのだが、内裏や二条院に育った源氏にとっては人の住むべき「屋敷」とはとても思えない狭さなのである。

  それでは平安京とはどのような都城であったのか、見ておくことにしよう。
  平安京は、東西約4、5キロ、南北約5、2キロで、やや南北に長い土地であった。この土地を東西、南北それぞれを540メートルごとに区切り、九つの条と八つの坊に区画し、合計72の坊とした。なお一番北の街区を「北辺坊」と言って、東西と南北の距離の違いを調整したのだろう。
  この坊を十六等分したものを「町(まち)」と言い、その一辺は120メートルほどである。大臣級の人の邸はこの広さ(一町)である。ちなみに源氏が建てた六条院は四町(240メートル四方)を占めた。
  さらにこの「町」を三十二等分したものを「戸主(へぬし)」と言い、一般庶民はこの一区画を最小単位として国からもらった。縦が15メートル、横が30メートルという細長い土地で、450㎡に当たる。道路部を除けば120坪ほどになろう。現代の庶民にとっては、「比較的に広い敷地ではないか」と思われるかもしれない。ちなみに、今でも京都では「うなぎの寝床」と言う間口が狭く奥行きが長い屋敷があるそうだが、ここからきたものであろう。

  さて、夕顔の敷地も恐らくこの一戸主であったのではなかろうか。何しろ源氏が五条の大路に車を止めて、物見窓から覗くと、屋敷の中から大勢の女房が大路を覗いている姿が、簾越しに見えたというのである。
  さらに、源氏が
  『「をちかた人にもの申す」と一人ごち給ふ』
と、その声が彼女らに聞こえたという。
  ある朝などは、隣の家々の賤の男たちが、
  「今日は本当に寒いことよのう」
  「どうも商売が芳しくなくてね」
  「北さん、聞いているかい」
などと話している声が聞こえてきたとある。また、唐臼を挽く音や砧を打つ音、空を渡る雁がねや壁の中のキリギリスの声までが、源氏の枕元まで聞こえてきたという。そればかりではない、隣の家で、御嶽精進をする読経の声まで聞こえてきたというのだ。
  これではいくら「息長川」と思っていつまでも話し続けようとしても、落ちついて相手の話を聞き取ることなどできない。源氏が「どこか静かな所へ」と思うのもやむを得ないことである。

  次に考えなければならないことは、彼の身分である。臣籍に下っているとはいえ、まぎれもない今上の第二皇子なのである。しかも、今上の信頼は厚く、その寵愛も深い近衛の中将なのである。そんな人物が、五条の「むつかしげなる」大路の「見入れの程もない」屋敷に通うなどということはありえないことだし、許されるべきことでもない。人に知られたら途方もないスクープになること必定である。
  『御装束をも、やつれたる狩の御衣をたてまつり、さまを変へ、顔をもほの見せ給はず、夜深き程に、人を静めて出で入りなどし給ふ』
と徹底して慎重に忍んで夕顔を訪ねたのもまた当然のことと言わなければならない。
  この「顔をもほの見せ給はず」を、多くの解説書が「覆面をして」と解釈しているのだが、それは無理である。なぜなら、賤の男たちが朝早くから騒ぎたつ猥雑な五条の町である。いくら源氏がやつした姿をしていたとしても、その高貴さは自ずから分明である。そんな立派な男が覆面をして、しがない屋敷から朝ごとに出てくれば、あっという間に大変な噂になってしまう。ただ、この「顔をもほの見せ給はず」とは、どのようにして顔を隠したのか、私にとっては未だに謎ではあるが。

  いずれにしても、こんな所では逢瀬を重ねることなど不可能である。源氏は迷う。
  『(夕顔が恋しくて)いと忍びがたく苦しきまで思え給へば、なお(やはり)、誰となくて二条の院に迎へてん』
とまで思うのだが、それも容易なことではない。そこで、
  『ことさらに人来まじき隠れ家求めたるなり』
と運命の廃院に夕顔を導くのである。
  しかし、あまりに急なこととて、夕顔は渋るし、彼女の屋敷の者たちも
  『かかる(源氏の)御こころざしのおろかならぬを見知れば、おぼめかしながら、頼み聞こえたり』
と思うしかない。「おぼめかし」とは、気がかりで不安な気持を言う。まだ素性もよく分からない男(源氏)に、主(夕顔)がどこに連れて行かれるのか不安ではあるが、男の、主に対する気持ちのあまりにも真剣で、愛情深いことに鑑み、男を頼みにするしかないのである。これが悲劇に繋がってしまった。

  源氏のこの時の行為は確かに強引であり自分勝手である。しかし、その行為は、彼の真摯な愛情から出ていることに違いはないのである。移り気な男の単なる「あだ心」からのものではない。 
  源氏は女に対していつも強引であり自分勝手であるが、その底には温かい情を湛えているし、「息長」く女を世話するという殊勝さも持っている。尼になってしまった空蝉を生涯面倒みているのもその証しである。
  死した夕顔に対する愛情も生涯にわたって続いて行く。その集大成が、彼女の娘・玉鬘への愛として迸り出たのではなかろうか。
  読者は、「児めかしい」夕顔を、そんな「けうとく、鬼でも出そうな廃院」にどうして連れて行ってしまったのか、あまりに浅慮ではないかと厳しく非難したくなる一方、源氏の純で真剣な態度に、つい甘くも許してしまうのである。


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