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源氏物語

源氏物語たより618

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     『紐ばかりを』   源氏物語たより618

  葵上の正日(しょうにち 四十九日)までの間、頭中将は、光源氏の部屋にしばしば慰めにやって来ていた。時雨が降る今日もやって来た。源氏は
  『しどけなう、うち乱れ給へるさま』
をしていたが、
  『紐ばかりをさしなほし』
なさる。直衣の襟の紐を外すのはくだけている時だけで、正式には許されないことなのである。二人は若い時からこよなき遊び仲間で、管弦や学びの折々にはいつも一緒に連れ立っていた。いわば良き遊び相手であるとともに良きライバルでもあった。そんな関係にある二人でも、くだけた姿で対応しては失礼に当たるのだ。源氏は臣籍に下っているとはいえ天皇の子、頭中将よりもはるかに身分は上である。それでも源氏の方が「襟の紐を指し直し」て応対するのである。現代では考えられないことである。
 
  ところで、この「紐」とは、狩衣、直衣、束帯などの装束の袍の頸の部分についている紐のことで、結び玉にした雄紐と輪にした雌紐があり、正式の場では、この雄紐を雌紐の輪に差し入れて止めておかなければならない。袍の襟は「円領上頸(まるえりうわくび)」で、現代の「詰襟」と言ったところである。学ランの襟を思い出せばよい。学ランが正服の学校では、朝会や卒業式などの時には襟のホックをきちんと止めておく。それと同じようなものと考えればいいだろう。もっとも今ではホックをきちんと止めている生徒などは少ないようで、一番上のボタンさえはずしていて、誠に「しどけない」姿をしている生徒が多いが。

  『常夏』の巻にも、この「紐」が登場する。大層暑い日、源氏の所に若い殿上人が大勢集まって来て、釣殿でお酒を飲みながらの宴が設けられた。彼らは、大騒ぎしながら氷水(ひみづ)を飲んだり水飯を食べたりする。源氏は無礼講であるからと言って、物に寄り臥しリラックスしながら、若い連中にこう言う。
  『宮仕へする若き人々、(この暑さには)耐へがたからむ。帯・紐解かぬほどよ』
  「宮仕えしている若い人々は、こんなに暑い日でも帯や襟の紐を解くことができずに大変なことであるなあ」と同情したのである。恐らく彼らは、太政大臣(源氏)の前であるから、頸の紐も指したままであったのだろう。源氏は続けて
  「せいぜいここだけでも、気楽に寛いでくれたまえ」
と言っているから、彼らは一斉に「紐」を外したのかもしれない。

  政務のために参内する時には、束帯でなければならない。束帯では、一番上に袍を着、その下には半臂(はんぴ)や下襲を着る。さらに腰には石帯を締め飾り太刀を吊るす。これを「朝服」と言うが、想像しただけで汗が出て来る。ただし大臣の公達や三位以上で特に許された者は、直衣でも参内できる。若い連中は当然直衣は許されないから束帯で、いつも襟の紐をきちっとさしておかなければならない。源氏はそういう若い殿上人に対して
  「この暑いのに気の毒なことよなあ」
と同情したというわけである。
 
  現代では宮仕えする人も随分気楽な服装になってしまって、特に「クールビズ」などと言って、夏の間はネクタイをしなくていいばかりか、半そで・開襟という打ち解けた姿をしている。国会議員さんでさえそうしている。しかし、いざ大事な人との面会のための外出ともなれば、どんなに暑い日でもネクタイと背広は欠かせない。その意味ではあまり変わっていないのかもしれないが、束帯の袍は体全体を完全に覆ってしまっているので、いかにも窮屈で暑苦しそうである。背広は襟が大きく開いているので、風通しも良い。京の夏は格別に暑いと言う。あの束帯を着て政務に励んでいる様子を想像すると、それだけで汗が吹き出てくる。
  
  それにしても、袍の襟の雄紐・雌紐という誠に些細な事象に目をつけ、それによって緊張と弛緩という状況を創るりあげる作者の筆法には毎度のことながら感嘆するしかない。ごく日常的なことによって物語に厚みと深みを添え、それに何よりも真実性を生み出しているのだ。


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