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源氏物語

源氏物語たより626

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     「中神」が分からない   源氏物語たより626

  「中神」とは、『帚木』の中に出て来る言葉であるが、その実態がよく分からない。「雨夜の品定め」の翌日、光源氏は内裏から左大臣(葵上)邸に退出する。その時に女房たちと源氏との間にこんなやり取がなされる。
  『「今宵、中神、内裏よりは塞がりて侍りけり」と聞こゆ。「さかし(源氏の言葉で、「そうだな」という意味)」。例は忌み給ふ方なりけり』

  「中神」とは、暦神のことで、「天一神」とも言う。天一神は、十六日間は天上にあるが、己酉(つちのととり)の日に天から下りてきて、まず北東の隅に六日間遊行し、次に東の方に五日間、以下、東南の隅、南の方・・とそれぞれ六日と五日と、合計四十四日間{(6+5)×4}、四隅、四方を遊行する。そして、癸巳(みずのとみ)の日に天上に帰って行く。天一神が天上にいる時にはさわりとなる方角はないが、地上にいる時に、この神の遊行している方角は「ふたがり」と言って、その方角に向かって事をなすことを忌み、「方違え」をしなければならなくなる。

  さてそれでは、先の源氏の行為をどう捉えたらいいのだろか。左大臣邸は、内裏から向かって今宵から中神の遊行する方角になるという。したがって、本来源氏は来てはいけないところであったのだ。女房たちに注意された源氏も「そうだな」と言っている。源氏自身が、左大臣邸は今日は「方塞がり」であると分かっているにもかかわらず、どうして来てしまったのだろうか。源氏の意図がこう書かれている。
   『(いつも内裏にばかり籠っていて、ここにはほとんど来ないことが)『大殿(左大臣)の御心いとほし(気の毒)ければ』」
ということで、左大臣に申し訳ないからなのだという。
  この後、源氏は女房たちの忠告を無視して、大殿籠ってしまう。この行為も解せないことである。すぐにも方違えしなければならないというのに、寝てしまうとはどういうことであろうか。
  玉上琢弥(角川書店『源氏物語評釈』は、
  「昨夜女性論に花を咲かせてとうとう徹夜をしてしまった翌日である。何より体がだるくて、眠くてならぬ。“かたふたがり”も構わず寝てしまう、お坊ちゃんの源氏」
などと暢気な解釈をしているが、そんな甘い源氏であろうか。
  これは、彼の計算ずくの悪だくみなのではないかと私は思う。一つには、肩の凝る左大臣の付き合いをしなければならないことが煩わしいのだ。そして何よりも葵上と居ることが嫌だからだ。そのために短時間だけ居る条件として「方塞がり」を選んだということである。しかしそうかと言って、これ幸いとばかり早々左大臣邸を辞してしまうのも気が引ける。そこで「なやなし」を理由にして寝入ってしまったのだ。そうすれば
  「源氏さまは、こちらでごゆっくりしていらっしゃいます」
と、女房たちが左大臣や葵上に御注進という段取りになるだろう。日ごろの無沙汰を大殿籠ることで罪滅ぼしすることができる、と考えたのだ。

  さらにかれの狡いのは、この「大殿籠って」しまった行為である。彼は、いずれにしても今宵はどこかに方違えをしなければならないと承知している。そして、方違えともなれば、「何か好いことが起こるはず」と甘い夢想を持っているのだ。そんな自分に相応しい方違え所は、必ず供人が探してくれる、と読んでいる。案の定、供人の一人が紀伊守邸がいいと言って推薦してきた。表面的には、最近紀伊守は、中川から水を引いて涼しい陰を作っているからだということである。られらの真意は別にある。ところが、肝心の紀伊守は、
  「父の妻(空蝉)が物忌みに来ているので・・」
と渋る。それを聞いた源氏は、小躍りしてこう言う。
  『女遠き旅寝はもの恐ろしき心地するべきを。ただその几帳の後ろに』
  で、この話をぜひ進めるよう促す。「ただ」とは「すぐ」という意味で、「女の几帳のすぐ後ろが好い」と言うのだから、源氏の面目躍如で、ここにこそ色好みな彼の本意があったのだ。
  今宵は方違えをすることで、珍しい女と寝ることができるかもしれないと読んでいたために、ここで十分大殿籠って体力をつけておこう、という魂胆である。これは私の少々うがった考えかもしれないが、紀伊守邸に行って、彼がまず守にこう言って困らせていることでも察しが付く。
  『帷(とばり)帳もいかにぞは。さる方の心もなくては、めざましきあるじならん』
  冗談めかして言ってはいるが、彼の魂胆は透け透けである。催馬楽を引用して巧みに「女の用意がなくては興ざめだぞ」と守を脅迫しているのである。このことからしても私の解釈も、あながち「うがった考え」とも言えないと思う。

  『枕草子』に
  『すさまじきもの 昼吠ゆる犬。春の網代。・・方違へに行きたるに、あるじせぬところ。まいて節分などはいとすさまじ』(二十五段)
とある。「あるじ」は「饗応」という意味で、当時は、方違えに来た人を、方違え所では饗応しなければならなかったようである。「すさまじ」とは、源氏が紀伊守に言った「めざまし」とニュアンスが似ていて、期待に反して面白くない、不快な気がする、心外だというような意味である。節分にはよく方違えをしたようであるが、特にこの時は手厚く客をもてなさなければいけなかったのだろう。
  その結果、供人たちは紀伊守邸で、酒・肴の大盤振る舞いを受け、満足してそのまま寝込んでしまう。彼らは、中川から水を引いて豪奢に家造りをするような受領の家であれば、十分な御馳走にありつけると計算していたかもしれない。一方、源氏は源氏で、女の御馳走にあずかるという段取りになる。

  当時の人が、「天一神」や方違えをどれほど信じていたのかは、よく分からない。とにかく当時は「禁忌」が多かった。陰陽寮で作成した暦(具注暦という。藤原道長などはこの暦に日記を書きつけている『御堂関白日記』)には、さまざまな禁忌が書かれていて、彼らはこの暦に添って行動しなければならなかった。結婚に相応しくない月、旅立ちに忌む日、そしてなんと髪を洗うに良き日まで決まっていたのである。彼らの行動は暦によって縛られていたとも言える。
   『手習』の巻に、横川の僧都の母が、初瀬に詣でた帰り、奈良坂を過ぎたところで、体調を崩し動けなくなってしまう、そこで近くの知人の家に泊まろうとする、ところがこの家では御嶽参りの精進をしているため、病身の人が泊まったのでは具合が悪いということで断られてしまう。それでは、比叡の麓の小野の邸まで連れて帰らなければならないかという場面が出て来る。しかし、
   『例、住み給ふ方は、忌むべかりければ』
ということで、小野の方角は塞がっているということで、結局、宇治に泊まらざるを得なくなる(実は、そのために、僧都一行によって瀕死の浮舟が助け出されるのだが)。このように禁忌を生真面目に守っている例もみられる。おそれく概ねの人々はこのように暦に従ったのであろう。
  ところが、源氏のように手におえない猛者にあうと、天一神も愚弄され、悪用されてしまう。『松風』の巻にもこの方違えが出て来る。「嵯峨の御堂に・・」と言って紫上に嘘をつき、大堰川にいる明石君に逢いに行く。
  その最後の日に、大勢の公達が大堰にやって来て、川の辺で大宴会となる。そこに冷泉帝からこんな手紙が届く。
  『今日は、六日の御物忌み開く日にて、必ず(内裏に)参り給ふべきを、いかなれば(今宵見えぬ)」
  「六日の物忌み」とあるところから、恐らく先の天一神が、源氏の二条院から向かって内裏の方角に遊行していたのだろう。それを理由に彼は参内をしないでいたのだ。そしてちゃっかり明石君と逢っていた。今日はその源氏の忌みが明けたの、で当然参内するものと帝は思っていた。ところが今日になっても参内しない。冷泉帝にとって、源氏のいない遊び(音楽)などおもしろくもない。そこで、いささかおかんむりの手紙をしたためたのだろう。帝の思いをよそに、源氏は大堰でどんちゃん騒ぎの宴会をしていた。
  紫上には嘘をつき、帝にまでおおけなきことをする源氏。
  源氏くらいになると、方塞がりなどはいい口実になってしまう。ひょっとすると紫式部や清少納言レベルになると、天一神や方塞がりなどは、心の中ではあまり信じていなかったのかもしれない。清少納言が、『枕草子』で、方塞がりを「御馳走目当て」くらいに考えていたように、ハイレベルの知識人たちは、自分に都合の良い手段・方法としてこれを活用していたのかもしれない。


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