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源氏物語

源氏物語たより628

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     十分なるユーモア作家・紫式部  源氏物語たより628

  内侍司(ないしのつかさ)に、源典侍(げんのないしのすけ)という女性がいる。随分お歳を召しているというのに、男に関しては異常なほどの関心を示す。

  内侍司とは、後宮十二司の一つで、天皇に常侍し奏請・伝宣あるいは女官の指導・監督などをする。この司の長官とも言うべきものが、尚侍(ないしのかみ)で、二人おり、一人は妃の立場として扱われる。朧月夜がそれにあたる。玉鬘も尚侍になるが、彼女は事務方として勤めている。いづれにしても尚侍には大臣級の娘がなるのが慣行のようだ。
  その次官(二等官)に当たるのが典侍で、尚侍はいわば名誉職のようなものであるのに対して、実質的には典侍が内侍司を取り仕切る。光源氏の忠臣である惟光の娘も典侍を望んでいる。惟光の娘は五節に選ばれたが、新嘗祭の行事の後は、五節はみな宮仕えをすることになっていた。そこで、惟光は
  「どうせ宮仕えをするのなら典侍に・・」
と源氏にその骨折りを頼んでいる。また、『枕草子』には、「上達部になるのだったら、左大将がいい・・」「君達だったら、頭中将がいい・・」「受領になるのだったら、伊予の守がいい・・」などという内容の記述の並びにこうある。
  『女は、内侍のすけ。内侍(内侍司の三等官で掌侍~ないしのじょう~のこと)』
   とにかく「典侍」は、平安女性憧れの職掌だったようである。しかし、出自もそれなりでなければならなかったし、知識・教養、人柄なども優れていなければならなかったはずである。

  さて、今日のヒロイン・源典侍もまさにそれであり、彼女も、
  『人もやんごとなく、心ばせありて、あてに、おぼえ高』
い人物である。「家柄も立派、心構えもしっかりしていて、品があり、人々の評判も上々」というのだから申し分のない典侍である。特に彼女は琵琶に堪能である。
  ところが、争えないのはそのお歳で、五十七、八歳という。現代で言えば優に七十歳は越えている。
  しかし、それはそれで仕方のないことである。問題なのはこの典侍の性癖である。
  『いみじうあだめいたる心ざまにて、そなたには重からぬ』
というのだから、困ったものである。「重からぬ」とは、「(色恋に対しては)慎重でなく軽々しい」という意味。
  源典侍がそんな女であることを源氏はいつも
  「いい歳をして、どうしてそれほど男好きの浮気者なのだろう」
と苦々しく思っていた。しかし、そこは源氏で、思っているだけでは終わらない。冗談ごとを言いかかっては彼女の気を惹いてみたりするのだから、これまた相当な色好みである。すると彼女は、源氏のことを
  『似げなくも思はざりける』
というのだから、たいしたものだ。源氏はこの時、十九歳。四十近くも差があるというのに、
  「源氏さまも私の相手としては、不似合でもないわね」
というのだから。
  ある時、この典侍がいつもよりは姿や髪型を優美に、また衣装も華やかに着飾って色気たっぷりにしているのを見た源氏は、   「いつまでこんな色めいて若作りをしているのだ」
と苦々しく感じながらも、一体何を考えているのやらからかってやろうと、彼女の裳の裾を引っ張って注意を促す。すると、見事な絵が描かれた扇で顔を隠しつつ、源氏の方に流し目を送ってくるではないか。ところがその流し目がいけない。
  「眼の周りの皮はたるんでいるし、黒ずんでいる。それに、せっかく隠した髪も扇の外にはみ出してぼさぼさである」
  このあたりは、雪の朝、思わず見てしまった末摘花の赤い鼻や痩せ痩せの肩の骨を思わせる場面である。
  「それにしても年に似合わぬ扇の絵よ」
と源氏は扇を交換してみると、そこには古今集のこんな歌が書かれていた。
  『大荒木の森の下草老いぬれば 駒もすさめず 刈る人もなし』
  「大荒木の森の草は、もうすっかり老いてしまったので、馬だって食べようとしないし、刈る人もいない」ということなのだが、もちろん源典侍自身のことを嘆いたものだ。「私はすっかり年を取ってしまったから男どもは誰も相手にしてくれない」という意味である。それを見た源氏は、
  「歌などいくらもあろうというのに、よりによって「森の下草老いぬれば」を選んで派手に扇に書きつけるとは」
と呆れる。そこで源氏は、 
  「そう言いながら、お前さんの所には大勢男がやって来るのではないの?」
と混ぜっ返す。すると、源典侍
  『君し来ば 手慣れの駒に刈り飼はん 盛り過ぎたる下葉なりとも』
  「あなたがいらっしゃるというのなら、飼い馴れた駒のつもりで草を刈って大いに歓待いたしましょう。少々古くなってしまた草葉ではありますけどね」
と、堂々と応じてきた。十九歳の源氏をたっぷり可愛がってあげようというのだから、負けていない。いや源氏の方がたじたじとなって、尻尾を巻いて逃げようとすると、その袖を捉えて、
  「私に恥をかかせるというの!」
と泣き掛かるのだから凄まじい老女である。

  ある夕立の涼しい宵、源氏が温明殿(三種の神器・鏡を安置する殿舎)の近くを通ると、源典侍が、歌を歌いながら琵琶を見事に弾きこなしている。その歌の歌詞がまた凄まじい。
   「私は瓜作りの女房にでもなってしまおうかしら」
というもので、自分を相手にしてくれない源氏に当てつけているのだ。
  こんなやり取りがあった後、結局、源氏はこの老女の犠牲(契りを結ぶこと)になってしまう。

  老女の色好みは褒められたものではない。が、そう非難しつつも、あの若き貴公子・源氏さまがその虜になってしまうというのだから、何とも滑稽である。
  その後、この源典侍を巡って、源氏は頭中将と恋のさや当てのドタバタ劇を演じたりするのだが、私の力量ではその面白さを十分伝えきれないのが歯がゆくてならない。ぜひ原文(『紅葉賀』)をたどってその面白さ・醍醐味を堪能していただければ思う。
  源典侍も、末摘花と同じように源氏から盛んに虚仮にされるのだが、『末摘花』の巻で感じたような嫌味は全くない。それは源氏が虚仮にしつつも、彼女の長所・美点を、所々に書き添えているからであろう。また彼女自身も、源氏に負けない強さを持っているのも読後感を別にする要素になっている。末摘花が、源氏から一方的にくたされ徹底的にいびられていた姿はここにはない。むしろ、百戦錬磨の老女にあしらわれ翻弄されている源氏の姿が滑稽で、爽快ですらある。もっとも長年にわたって華やかな宮中で男と丁々発止してきた才女と、常陸宮の姫君とはいえ葎の宿に逼塞していた末摘花を比べるのには無理があろうが。
  「たより627」では、紫式部はユーモア作家たりうるかという問題を提起したのだが、私はその力量十分と思っている。処々に散りばめられている滑稽な場面や表現に気付かないと、玉上琢弥のように
  「いずれにしても、作者は喜劇を描ける女ではない」(角川書店 『源氏物語評釈』)
と平気で断言してはばからないようなことになってしまう。この源典侍の一場面を映画化でもしたら、結構笑えるのではなかろうか。

  ところで、「老女の色好みは褒められたことではない」と先に言ってしまったが、決してそんなことはないのであって、いくつになっても色恋を忘れないことが、若さを保つ秘訣になるのだ。
  『伊勢物語』六十三段は、まさにその問題をテーマにしている物語である。大層年老いてはいるが色心を知った女が、なんとしても今一度自分を愛してくれる男と逢いまみえたいものと切望していた。その気持ちを「夢」にことづけて三人の息子に語る。兄二人は「何を今更!」とすげなく聞き流してしまうが、末の子は母の心をいとおしく思い、何とか願いを叶えてあげたいと奮闘する。たまたま近くに在五中将(在原の業平のこと)が狩りに来ていたので、その馬の口を捉えて、
  「実は私の母がかくかく云々」
と訴える。あはれに思った中将はその晩、この老女の所に泊まる。
  もちろんその後、中将は通って来ない。悲しんだ女は中将の家に行って家の中を垣間見る。すると男がぼそぼそとこんな歌を詠っているではないか。
  『百年(ももとせ)に一年(ひととせ)足らぬ九十九(つくも)髪 我を恋ふらし面影に見ゆ』
  「百年に一年足りない」ということは九十九ということ、つまり大層年老いているということで、「その老女が私を恋しがっているようなので、どれ出かけて上げようか」ということである。女は中将が自分の所にやって来ると判断して、慌てて家に帰り、床に臥してこんな歌を詠っていた。
  『さむしろに衣片敷き今宵もや 恋しき人に逢はでのみ寝む』
  「今夜も私は一人で寝なければならないのか」という心である。あはれに思った中将はその晩、女と床を共にする。
  源典侍の話は、この伊勢物語を下敷きにして戯画化しているような気がする。もっとも伊勢物語も一幅の戯画ではあるが。いずれにしても九十九歳まで恋ができるということは羨ましい。
  紫式部は、恋にまつわる、はかなさや頼りなさ、悲しみや歓び、あるいは苦しみ、はたまた滑稽などをいつも鋭く観察していたのだろう。源典侍の話は見事な滑稽譚といえる。


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