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源氏物語

君語るなよ春の夜の夢  源氏物語たより634

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        君語るなよ春の夜の夢   源氏物語たより634

  新古今集をめくっていたら、和泉式部の面白い歌に出会った。「たより633」で取り上げた「恋は隠すもの」に関連する歌である。

  『枕だに知らねば言はじ 見しままに君語るなよ 春の夜の夢』

  和泉式部は、天性の歌才の持ち主で、情熱的で奔放な恋愛歌人として知られる。もちろん歌だけではなく、彼女の生き方そのものが奔放にして積極的なのである。冷泉帝の皇子である為尊親王、敦道親王の二人の親王と激しい恋をしているのを見ただけでも、彼女の恋に対する自由奔放さが髣髴としてくる。
  同じ中宮彰子に仕える紫式部とは昵懇の中、よく手紙のやり取りをしていたようで、『紫式部日記』に
  『和泉式部といふ人こそ、おもしろう(興深い手紙を)書きかはしける。されど、和泉はけしからぬ方こそあれ』
とある。「けしからぬ方」とはどういうことを指しているのか分からないが、意味は「常軌を逸した一面」ということなので、恐らく先の二人の親王との恋愛沙汰などを指しているのであろう。

  さて、冒頭の歌にある「枕だに知らねば」が曲者で、当時の俗信を知らないと理解できない歌である。当時「枕」は、男と女の関係を熟知するものと考えられていたようだ。なぜなら男と女が同衾する時には、必ず枕を必要とするからである。枕は、男・女の睦言や嬌態や秘密などの一部始終を知ってしまう。そんなところから出た俗信なのであろう。
  ところがこの歌では、その「枕さえ知らない」と言っている。ということはどういうことになるのだろうか。それは、枕を使わなかったということである。男が突然忍び込んできたので、枕の用意もままならなかったのだ。 
  丁度、光源氏が弘徽殿に忍び込んで、暢気に「朧月夜に如くものはなし」などと歌いながら、向こうからやって来た女の袖を掴んで、抱きかかえるや、長押の奥に連れ込み、事に及んでしまったと同じ状況である。つまり枕なしに情事が進んだというのだから、枕は二人のことを知る由もない。したがって、歌の意味は、
  「枕だって私たちの情事を知らないんですから、二人の情事を人に告げてしまうなんてことはありませんわ。ですから、あなたも、見たままを人に言ったりしないでくださいね」
となろう。
  この「見し」も問題である。この場合は「見たまま」という意味で使われているのだが、この言葉には「男女が契る」という意味もあり、これは「春の夜の夢」にもかかっていると思われる。契りを交わしたのは、あたかも「春の夜の夢」のように甘美にして陶然たるものでもあったということだ。和泉式部は、突然の出来事とはいえ、この情事に十分満足しているのである。男に痴態も見せ嬌声も聞かれてしまった。そんな羞恥な姿を男が人に語ってしまったとしたら、顔から火の出る思いをしなければならない。そこで「見しままに(契った状況そもままに)君語るなよ」と注文を付けざるを得なかった。
先の『紫式部日記』に、和泉式部の歌をこう評している。
  『口に任せたることどもに、必ずをかしき一ふしの、目に止まる(ことを)詠み添えたり』
  「口にまかせた即興歌などに、かならず気の利いた一点が、(つまり)目に止まることばが詠みこんであります (笠間書房 小谷野純一訳 和泉式部日記)」という意味であるが、頭書の歌などは、まさにこれに当てはまる「をかしき一ふし」の一つと言えよう。したがって、この「をかし」は、「興趣豊か」というよりも、むしろ「独特で面白い」が当てはまるのかもしれない。

  なお、新古今集には和泉式部の歌の直前に、伊勢(和泉式部より7,80年前の人)のこんな歌がある。
  『夢とても人に語るな 知ると言えば手枕ならぬ枕だにせず』
  和泉式部の歌と同工異曲ならぬ「同工」そのものなので、頭書の歌は式部の独創と言うわけにはいかないかもしれなない。伊勢の歌も例の枕の俗信から出たもので、
  「枕は秘事を知るといいますから、あなたと共寝する時には、手枕以外の枕はいたしません。ですから絶対私たちの秘密を口外しないでくださいね」
という意味になる。ただ「手枕だったらいつでも結構」という意が裏に含まれているのだから、伊勢の極めて積極的で扇情的な人がらを知ることができる。この詞書にはそれが露骨に表れている。
  『忍びたる人と二人臥して』
  和泉式部も伊勢も、ともに恋に対して積極的・情熱的であるが、それでも「この事、内緒よ」というところなどには、まだ純で可愛いところが残っているといえよう。

  そういえば、百人一首に「手枕」に関するこんな歌がある。
  『春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ』
  この歌の詞書がまたふざけている。月の明るい夜、大勢の人が集って物語をしている時に、作者の周防内侍が眠くなったのだろう、
  「枕でもあればなあ・・」
とつぶやいたところ、それを聞き付けた男が、御簾の下から腕を突き出して
  「どうぞこれを枕に」
と言う。それに応えた歌である。歌中の「かひな」は「甲斐がない」の「かひな」と腕の「かひな」を掛けていて、随分手の込んだしかもあからさまなやり取りである。
  この歌、和泉式部の「枕だに」と極めて近い。周防内侍の歌も
  「あなたの手枕など借りたら、とんだ噂が立つから、遠慮しておきますわ」
とぴしゃやり拒否しておきながら、
  「たとえ春の夜の夢のようなひと時が持てたとしてもね」
と匂わせているのだから、この二人、相当深い仲にあったのだろう。

  源氏物語にも女が「この事は決して口外しないで」という場面が何か所か出てくる。例えば『帚木』の巻に、源氏が、空蝉の所に強引に押し入った時にも出て来る。彼女を抱きかかえるや自分の部屋に連れ込み、
  『見ざらましかば、口惜しからまし』
と思って相手に有無を言わせず契ってしまう。ところが、夫ある身の空蝉にとっては源氏の行為は困惑以外のなにものでもない。そして、源氏にこう泣きつく。
   『よし、今は見きとなかけそ』
  「な・・そ」は、「相手に懇願して、その行動を制する意を表す 広辞苑」で、「けっして口にかけてくれるな」という意味になる。全体は、
  「こうなってしまった以上は、仕方がありません。でも、私と契ったなどと、決して口にはしないでくださいませ」
となる。この「見き」も契ることを意味しているから、和泉式部の場合と同じ状況ではあるが、空蝉の場合は、たとえ相手がすべての女のあこがれの的・光源氏さまであっても、「春の夜の夢」というような甘美な夢心地のものとはならず、本当に人に言われては困るのである。

  それにしても、女がこれほど男の口外を恐れるのは、男というものには、女との情事を他人にほのめかしたい、自慢したい、という本性が備わっているからではなかろうか。そう言えば、若き日の源氏と頭中将は、よく過去に関係を持った女のことを語りあい、自慢しあい、笑い合っている。
  「たより633」で、今井絵理子と神戸の市議との不倫で、森本卓郎のコメント(新幹線の中で手を繋いで寝ていた男の無防備は、男が憧れの女と恋に落ちていることを周囲に自慢したかったのでは)を紹介し、そんなことはなかろうと私は否定した。しかし、こういう男の本性を勘案すると、森本卓郎の考えも、あながちあり得ないことではないと思えてくる。
  和泉式部も伊勢も空蝉も、そんな男の本性を心配し警戒して、男に「見きとなかけそ」と頼んでいるのだ。ただ和泉式部や伊勢の場合は若干甘えが混じっているようで、その言葉が本音かどうかは分からない。むしろ「ちょっぴりなら漏らしてもいいわ」というニュアンスが感じ取れないでもない。ところが、空蝉の場合は、本心からの哀願である。

  この事に関するもう一つの例を源氏物語の『空蝉』の巻で見てみよう。
  源氏が二度目に空蝉の部屋に忍んで行った時に、彼女はいち早く源氏の御入来を察知し、衣一枚を残して逃げ出てしてしまう。源氏がそれとは知らず、のこのこと空蝉の寝床に近づくと、なんと別の女が寝ているではないか。しかし、さすがは源氏で、「この女でもいいか」などと実にあっけらかんとして、彼女と契ってしまう。
  別れに当たって、女(軒端荻)にあれこれ甘い言葉を並べながら、
  『人知りたる事よりも、かやうなる(密会)は、あはれ添ふこととなん、昔人も言ひける』
  「密会などというものはね、人に知られてしまっているよりも、誰も知らない方が味があるものなのだよ。昔の人も言っているでしょ」という、誠に手前勝手な論理を展開する。要するに「黙っていなさい」ということである。源氏とすれば、帝の子であり近衛の中将という身分上の問題がある。また、このことが女の親の知るところともなれば「婿に・・」などとなりかねない。それも面倒なことだ。そして何よりも空蝉への面目がある。
  ということで、「源氏さまと契った」などと女に吹聴されたら、源氏にとっては誠にまずいことになってしまう。そこで口止めしたのである。
  この場合は、男が女に口止めを頼んでいるというところが、先の女の場合と違って、可笑しい。

  恋には、恋する者同士の双方にさまざまな事情が絡んでいるので、そのために秘密を「絶対口外してくれるな」とか、時には「ちょっとなら、漏らしてもいいわよ」とか、あるいは積極的に「私たちの恋、人に知ってもらいたい」などと幅があるので、興が尽きないのだ。


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