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源氏物語

具注暦に翻弄される平安人  源氏物語たより641

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      具注暦に翻弄される平安人   源氏物語たより641

  葵祭りの御禊の日、光源氏は斎院供奉の一人として馬上の人となる。その雄姿は「ゆゆし」いまで美しく、貴賤、貧富、老若、男女の別なく見物の人々の感涙を誘う。
  祭りの日は、紫上と同車してのんびり祭り見学としゃれ込む。
  西の対にわたって行くと、彼女は外出するからというので美しく着飾っていて、その髪はいつもより清らに見える。源氏は
   『久しう(髪を)そぎ給はざめるを。今日は好き日ならむかし』
と声を掛け、
   『暦の博士召して、時、問はせなどし給ふ』
のである。暦の博士が、この日は「好き日」と答えたのだろう、源氏自らが、紫上の髪を削ぐ。平安人は髪一つ削ぐのに、「好き日」「悪しき日」に拘ったのである。

  このように、当時の人々の行動を縛っていたのが「具注暦(ぐちゅうれき)」という暦である。月の大小や季節や日の吉凶の注を具備していたところからこの名になった。陰陽寮の暦博士が作成し、毎年十一月に奏上し、内外の諸司に配られた。日ごとに十干、十二支を記載し、二十四節気などが細かく載せられている。
 一日ごとに二、三行ほどの空白があり、当時の貴族はここに日記を記した。藤原実資などは、六十年近くにわたってこの暦に日記(『小右記』)を記している。中でも藤原道長の『御堂関白記』が有名で、国宝になっている。
 それでは、道長の日記の長徳二年(996)十月三日の具注暦を見てみよう。

(一段目) 月。箕|
(二段目) 三日。 庚。子。土。除|
(三段目) 小雪。沐浴|
(四段目) 公大過|
(五段目) 大歳対。拝官、療病、解除、壊垣、破屋、斬草、除服、吉。日遊在内|

  具注暦については、私は全く無知なので、分かる範囲で説明してみよう。誤りも多いことだろうが。

  一段目の「月」は、七曜「月、火、水、木・・」の「月」を、その下の「箕」は、二十八宿(星座の所在)のうち箕星(みぼし 射手座にある)を表している。昴(すばる)なども二十八宿の一つである。
  二段目の「三日」は、そのまま十月三日のこと。「庚」は、十干のうちの「かのえ」。「子」は、十二支の「ね」。したがってこの日は「かのえね」の日。「土」は、五行(木、火、土、金、水~万物組成の四つの元素)のうちの「土」。「除」は、「十二直」と言って、日々の吉凶、生活の指針を示す。この「除(のぞく)」の付いている日は、掃除、治療、沐浴、精進などに吉の日であることを表す。「除」の他に「建つ」「破る」「開く」などがある。

  三段目の「小雪」は、二十四節気(啓蟄、大暑、白露、冬至など)の一つ。
  四段目の「公大過」は不明。
  五段目の「太歳(たいさい)」は、八将軍の一つ・太歳神(木星の精)のことで、この神がいる方角は吉。その下にある七つの項目は、この日に行うに吉であることを示している。「解除」は掃除のこと。「斬草」は草むしりか。「除服」は喪明けに喪服を脱ぐことか。「日遊在内」は不明。

  とにかく、この具注暦は人々の生活・行動にさまざまな制限を加えた。先の「拝官」や「破屋」以外に、結婚、服薬、鍼灸、剃頭(髪の毛を切ることか、または出家か)、金銭授受、勝負事、諸芸・学問習得、旅行、夜ふかし、狩猟、樹木の伐採、衣服の裁断、・・限りなくある。中には、高いところに登ることや水辺の遊びまで、吉だ凶だと指図するのだからうっかり動くことができない。更に夫婦交合に「好き日」まで面倒を見てくれる。この暦の指図通りに行動していたら、「吉、吉、吉」で幸せの黄色いハンカチが風にたなびくことだろう。
  彼らはこれにのっとって行動していたのだ。『帚木』の巻で、源氏が方違えをし、空蝉に遭遇する僥倖を得たのもこれに依ったためと考えてよい。

  しかし、この暦にのっとって行動していたとしても、必ずしも幸せを得ることができるわけではない。暦のために人生を狂わせてしまった人物がいる。『宇治十帖』のヒロイン・浮舟がその人である。 
  宇治八の宮の娘・浮舟は、左近少将と結婚が決まっていたが、彼女が常陸介の実の娘でないことを知った少将は、この婚約を破棄してしまい、介の実の娘である妹と結婚してしまう。嫌気がさした浮舟は、腹違いの姉・中君の所に世話になり、奥まった部屋に居候することになった。
  ある時、中君の夫である匂宮が尋ねてくる。ところが折悪しく、この日、中君は「髪を洗う日」ということで自室にはいなかった。せんかたなく宮は部屋をうろうろしていると、見慣れない女童がいるのを目にした。そしてついに浮舟の存在を知ってしまう。彼女が意外に美しいことを知った宮は、誰とも知らない浮舟に抱きつき、ことに及ぼうとする。しかしこの場ではことなく済んだのだが、宮の彼女への執心は消えない。
  その後、浮舟は、薫(源氏の子)の妻になる。ところが恋には執念深い宮は、彼女が宇治に隠されているところを探し出し、深い関係になって行く。浮舟もまた宮の官能的・情熱的な愛におぼれていく。まめな薫と情熱的な匂宮との二人の男の愛の間で苦しむ浮舟は、ついに宇治川へ身を投げる。

  それもこれも彼女の不幸の発端は、中君の「洗髪(泔 ゆする)」にあった。いや、「洗髪に好き日」を定める暦にあった。

  それではその間のことを詳しく見て行ってみよう。宮は、洗髪中の中君にこう伝える。
  『折悪しき御泔のほどこそ、(会うのも)見苦しからめ。さうざうしくてや、ながめむ』
  「あいにくの先髪というのでは、お会いするのも難しかろう。だからと言って終わるまで私一人さびしく、ぼんやりもの思いに耽っているというわけにもいくまい」という意味である。と、それに対して中君の洗髪の世話をしていた女房からこう返事がくる。
  『げに、(宮が)おはしまさぬ隙々にこそ、例は(洗髪を)すませ。(中君は洗髪を)あやしう日頃、もの憂がらせ給ひて、今日過ぎば、この月(洗髪に好き)日もなし。九、十月には、いかでかは、とて、(洗髪を私に)つかまつらせつるを』
  今月中に洗髪に好い日は今日以外ないという。しかも九、十月は洗髪を忌むというのだから、どうにもならない。折悪しくそんな日に宮が渡って来てしまったのだ。分かっていれば、別の日にしていたのに。
  とにかく、当時の女性の髪は背に余るほど長かったから、洗髪は容易なことではなく、一日がかりになった。しかも、暦で洗髪に「吉」の日は少なかったようだ。九月、十月はできないという。岩波書店の「日本古典文学大系」によれば
  「九月は正月・五月とともに、仏事の月ゆえ、洗髪を忌むという。すなわち仏の行事等で神と髪の字訓から遠慮した。また十月は神無月で、これも神と髪の・・」
ということらしい。
  そんなことで、暇を持て余した匂宮が、ただずみ歩いているうちに浮舟を見つけてし
まったのである。

  この後の浮舟の悲劇は、もちろん暦のせいではない。宮のあくなき好色心から起こったことではある。しかし、「あの時、もし・・」という思いは捨てきれない。もし暦に「髪を洗うに好き日」などという制限がなく、いつでも御自由にということになっていれば、宮が渡って来るという偶然にぶつかる可能性は減じてくる。とにかく今日を逃したら、洗髪は三ヶ月も先になってしまうのだ。背丈に余る髪をそれほど放っておくわけにはいかない。暦の縛りが不幸を招いてしまった、と言えなくもない。(少々こじつけ的論理ではあるが、浮舟の悲劇と暦に相関がないとは言えない、ということである)

  こんな悲劇に至らなくとも、当時の人々は暦のためにいろいろの不便を強いられ、時には涙を呑むこともあったのだろう。花見や紅葉見などの行楽ができなくなる、恋しい女に逢えなくなる、熱があるのに薬が飲めない、庭仕事には絶好の日和なのに、草もむしれない・・。
  もっとも、これをちゃっかり利用する者もいた。物忌みを口実に嫌な女に逢わずに済ましてしまうとか、坎日(かんにち 諸事に凶である日)を理由に政務を怠って家に籠りきってしまう男もあったようだが、それでも大半の素直な人々はみな暦に縛られ翻弄されていたはずだ。
  現代でも仏滅の日の結婚や友引の日の葬式は忌むために、不便を感じることがないではないが、平安時代はこの比ではない。


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