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源氏物語

歌で綴る淡路島  源氏物語たより657

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     歌で綴る淡路島    源氏物語たより657

  「淡路島」と聞いただけで、既にそこには情趣纏綿(てんめん)たる響きが醸し出されてくる。それはこの島の置かれている地理的位置と「淡路島」という地名の持っている語感によっているものと思われる。  
  淡路島は、瀬戸内海最大の島であるということだけでなく、明石海峡を隔てて兵庫県と、紀淡海峡を隔てて和歌山県と、そして鳴門海峡を隔てて徳島県と、それぞれ指呼の間に位置する。当然のことながら、古来、交通の要衝の地になって来た。筑紫に行くにも土佐や伊予に行くにも、舟人はみなこの島を仰ぎ見ながら旅を重ねた。万葉集の柿本人麿の羈旅歌
  『天ざかる鄙(ひな)の長路(ながぢ)ゆ恋ひ来れば 明石の門(と)より大和(やまと)島見ゆ』
も、明石海峡を通って大和に向かう時のものである。 
  (都を離れた遠い果てからの長い道のりを恋しく思いながらやって来ると、明石の海峡から大和故郷が見えることだ。 桜井満訳注『万葉集』 旺文社文庫)
  この海峡は、都を去る者にとっても都に帰る者にとっても、思い万感の地であった。

  また、この島が、記紀に記されているように、日本の八つの島のうち最初に生まれたという神話も、我々に何か他の島とは違う印象を与える。イザナギ・イザナミに関わる島(おのごろ島)や、その島にある平清盛創建の絵島大明神、あるいは源義経と静御前の墓と言われる史跡など歴史にも富んだ島である。百人一首にある藤原定家の
  『来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身も焦れつつ』
の「松帆の浦」も、淡路島北端にある浦で歌枕にもなっている。松帆の浦で藻塩を焼くように、身も焦れる程に慕い続ける恋の焦燥を詠ったものである。

  さらに「淡路島」の「あわ」が、「淡い」あるいは「あはれ」に通じ、何か人の心を感傷的にする響きを持っているのも独特である。その意味を持った古歌も多く詠われている。同じく百人一首にもある源兼昌の歌
  『淡路島かよふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守』
  (海の彼方の淡路島から 千鳥は波の上を通ってくる 友を呼んで鳴き交わしつつ・・そのさびしい鳴き声に きみよ 須磨の関守のきみは 幾夜 眠りを覚まされて 物思いにしずんだことであろう  『田辺聖子の百人一首』 角川書店)
  歌の心は、須磨の関守のもの思いを詠ったものではない。作者が関守になりきって、淡路島と千鳥の鳴き声と須磨の寂しさ・侘しさを詠っているのである。後に述べることになるが、この歌は源氏物語の『須磨』『明石』の巻を念頭に置いて作られたものである。
  今でこそ、淡路島は
  「一年を通じて気候は温暖で、春は一月中旬の水仙郷の開花とともにやって来る。ビワ狩り、ミカン狩り、豊富な海の幸が楽しめ、夏は全島が海水浴場となって家族づれで大にぎわい。 『NEWブルーガイドブック』実業之日本社」
という情況なのだが、昔は、賑わいよりも侘しさを誘い人の心をしみじみと打つ島であった。

  まして不如意な情況のもとにあって、須磨や明石に仮寓を余儀なくされ、この島を眺める者にとっては、「淡路島」と聞いただけで肺腑をえぐられる思いがしたことであろう。
光源氏はまさにそういう感慨を持ってこの島を眺めた。
  過酷な須磨での一年間の生活から逃れて、明石にやって来た源氏は、目の前の瀬戸の海を見るにつけ、その景色が住みなれた京の庭に見間違えられる。と、都のことがこの上もなく恋しく思い出され
  『行くへなき心地し給ふ』
のである。「行く方も知らぬ旅の空にいる心地がして」という意味で、これからどうなるのかもしれず、将来への暗澹たる思いはいや増す。
  そんな感慨に浸っている時に、
  『目の前に見やらるるは、淡路島』
なのである。自然に凡河内躬恒の歌が思い起こされる。
  『淡路にて あはと遥かに見し月の 近き今宵は所がらかも』
  躬恒は、淡路の掾(じょう 律令制の三等官)として淡路の国にいた。その躬恒が、帰京し明るい月を仰いで見ると、淡路で遥かに見た月とは違って、京の月のなんと素晴らしく見えることか、やはり「京は良いところ」という思いがしみじみ実感できる、という感懐である。彼は、淡路の掾という役人として赴いていたのだから、四年すれば帰京できる。したがって、在任中もさしたる苦しさや侘しさはなかったはずなのだが、それでもやはり京に比べられるものはないと言う。

  源氏は、自ら退去したとはいえ、罪を得て須磨に流れてきたことに違いはない。そして、京からさらに離れた明石にたどり着いた。これから何年ここでわび住まいをしなければならないのか、いや帰京することさえ定かではない。
  そんな身にとっては、海上にどんなに澄み渡って照っていようとも、淡路の月は悲しみを催す月でしかない。彼は思わず歌を口ずさむ。
  『あはと見る淡路の島のあはれさへ 残るくまなく澄める夜の月』
  (あれは淡路島か、あわれと昔の人の眺めた島の風情まで、私の望郷の想いに重ねて残る隈なく照らしている澄み渡った今宵の月よ  瀬戸内寂聴訳『源氏物語』 講談社)
  「昔の人」とはもちろん躬恒のことである。しかし、躬恒があの歌を詠んだのは京の地である。それに比べて自分は、京からこんな遥かな地にいつまでいることになるのか。そんなやるせない我が姿を、今宵の月がすべて映し出している。
  先の源兼昌の歌にもう一度戻ってみよう。兼昌は、源氏の身になって、あの名歌を創作した。源氏はまさに須磨の関守なのである。あわあわとした海上の淡路島を眺め、寂しい千鳥の声を聞き、澄みきって照り輝く月を見ては、これから幾夜、寝覚めの床を味わうことになるのだろうか、そんな源氏の苦衷に兼昌は自分の思いを重ねた。

  最後に、万葉集の二つの歌と詠み人知らずの古今集の歌一首および狂歌一首。
  『淡路島 門(と)渡る船の楫(かじ)間にも 我は忘れず 家をしぞ思ふ』
  (淡路島の海峡を渡る船の楫を漕ぐ少しの絶え間も、私は忘れずに家のことを思っている。 桜井満訳注『万葉集』 旺文社文庫)
  『淡路の野島の崎の浜風に 妹が結びし紐吹きかへす』
  (淡路の野島の崎を吹く浜風に、妻が結んでくれた紐がひるがえっていることだ。なお、「紐」は 男女が互いに相手の衣の紐を結び、そこに魂を結び籠めて、再び会う日までは解かないという風習があった(ことから詠まれている。 以上、旺文社文庫)
  この万葉集の二首、いずれも京を離れた男の、家を思い妻を偲ぶ歌である。

  『ほのぼのと明石の浦の朝霧に 島隠れゆく船をしぞ思ふ』
  (ほのぼのと明けてゆく明石の浦の朝霧のなか、島陰に姿を消してゆく船を見ていると、しみじみと旅の心が感じられる。 奥村恒哉校注『古今和歌集』 新潮社)
  恐らく明石の陸地から見た海峡の光景であろう、純粋な爽やかな叙景歌である。「ほのぼのと」という語感から受ける印象は明るい感じではあるが、まだ開け初めたばかりの明石の浦に懸かる霧はうっすらと棚引いていたはずである。その霧にぼんやり隠れる島、そこに一艘の船が自らの姿を隠すように消えていく、という光景は、やはり何か寂しくしみじみとした情感を内包する。

  『ゆきかへり友呼びかはしなき上戸 顔も明石の浦千鳥足』
  江戸時代にも、明石といえば千鳥が有名であった。その縁語として、千鳥足、顔もあかし、なき(鳴き)上戸を引き出している。また、友呼ぶ、なく、明石の浦もみな千鳥の縁語で構成してあり巧みである。
  源氏が、供人たちと須磨のわび住まいを嘆きあっていたその夜ふけ、なかなか眠れず一人涙していると、千鳥が大層あはれに鳴き交わしているのが聞こえてきた。彼は独り言のように歌を吟じる。
  『とも千鳥 もろごえに鳴くあかつきは ひとり寝ざめの床もたのもし』
  千鳥が群れて鳴いているのさえ頼もしく聞こえてくる、という絶望的な歌である。
  「ゆきかへり友呼びかへし」の狂歌師は、源氏のこの歌と、先の兼昌の「淡路島かよふ千鳥の鳴く声に」を下地にして作ったものであろう。しかし「友を呼びかわし酒を交わして、泣き上戸となり、顔は真っ赤で千鳥足」というのでは、源氏にも兼昌にもすまないし、どう弁解しようがあかしは立てられない。

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