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源氏物語

朧月夜の本音は  源氏物語たより670

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     朧月夜の本音は   源氏物語たより670

  朱雀帝は、譲位に当たって朧月夜のことが気になってならない。譲位後は、彼女が光源氏と結婚して子供まで儲けるであろうことが気がかりなのだ。そこで愚痴を交えながら難詰したり 
  「自分があなたを愛する気持ちは、源氏よりはるかに深い」
などと恋心を切々と訴えたりする。その姿は帝にあるまく、いかにも女々しく未練がましい。
  それでも、そういう帝の訴えを見聞きしながら、彼女は女々しいとも未練がましいとも思わず、内心こんな風に考えている。
「帝の容貌はなまめかしく清らでいられる。私への情愛も年とともに深まってきていらっしゃる。
  帝に比べて源氏さまはご立派な人ではあるけれども、私のことをそれほど深くは思っていて下さらなかった。そんな源氏さまのご様子やお心を、自分がものの道理を理解出来るようになった今考えてみると、あの恋愛沙汰は、自分にとっても源氏さまにとってもとんでもないことだったのだ。若気の至りの思慮のなさに任せて、あのような騒ぎを起こしてしまった。自分の名誉は勿論のこと、あの方にも大変な苦労を掛ける結果(須磨退去事件)になってしまった。何と辛いわが身であることか」

  さてこの朧月夜の心理を、どう解釈したらいいのだろうか。
  本心から源氏との愛情をあるまじきことだったと思い、それを悔いているのだろうか。あるいは帝の切々たる訴えに心打たれ、刹那的に自分の過去を反省したに過ぎないのだろうか。
  朱雀帝の容貌は確かになまめかしく清らではある。しかし、源氏に比べればやはり相手にもならない。したがってこのことで帝に情が移るというのも不自然である。
  また、「源氏さまは、それほど深く私のことを愛してくれたわけではなかった」かのごとく言っているが、それはどの段階のことを指して言っているのだろうか。そんな場面の記述は今までなかったし、源氏は真剣に彼女を愛していたようだったのに。彼女の真意が分からない。

  源氏は確かに多情であり、あまたの女性と関係してはいるが、それぞれの女性に対して嘘偽りのない愛情を注いでいることもまた間違いのないことである。朧月夜に対しても心から愛しているからこそ、五壇の日に弘徽殿で逢瀬を持ったり、彼女の実家(右大臣邸)で情を交わしたりという危険を冒したのではないか。
  しかも、源氏は、帝譲位の今でも朧月夜のことを
  『え思ひはなち聞こえ給はず』
という気持ちでいるのである。諦めることができないという意味だ。朧月夜への愛情が一方ならないものであることを表していて、朧月夜が言っている「帝ほどには深くは思って下さらない」と言うのは当たらない。

  帝が譲位して仙洞に暮らすようになっても朧月夜は
  『憂きに懲り給ひて、昔のやうにもあひしらへ聞こえ給はず』
という態度を取っている。源氏がこっそり手紙を出したりしても、まともには相手にもしないということを言っているのであろう。もっともこの時点では、朱雀院が彼女を片時も傍らから放すことなく時めかしていたから、源氏を相手にすること自体無理だったというのも事実であるが。
  それにしても、今までの激しい恋は何処に行ってしまったのだろうか。二人の恋は終わってしまったとでも言うのだろうか。

  この後、源氏は、明石姫君の誕生や六条院の建設などと慌ただしくなり、身分も内大臣から太政大臣へ、そしてついには准太上天皇にまで成り昇って行くのだから、朧月夜と関係を保つことなど困難な状況になってしまっていることもある。
  どうやら二人の恋は完全に終わってしまったようである。

  ところが、思いもかけない時に朧月夜が登場してくる。朱雀帝の譲位から十一年後、院が出家することになった。おのずから朧月夜はフリ-の身になる。そうなると源氏の色好みに早速火が付いた。
  『飽かずのみ思してやみにし御あたり(朧月夜)なれば、年ごろも忘れ難く、いかならん折に対面あらむ、いま一度逢ひ見て・・と思しわたるを』
  「不満なうちに終わってしまった朧月夜との関係であったので、長い間忘れることなく、何とかしてもう一度逢たいものと思い続けていたけれど」という意味である。「思しわたる」と言うのだから、この十一年間ずっと朧月夜のことは頭から離れなかったのだ。ここから分かることは、少なくとも源氏の方は、彼女との恋は終わらせていなかったということである。

  ある夜、実家に身を引いていた彼女を、ふらりと訪ねる。そして「物越しでもいいから逢いたい」と伝える。だが、女の方はこう答えて応じようとしない。
  『昔より(源氏の)つらき御心をここら思ひつめつる年ごろの果てに・・いかなる昔語りをか聞こえん』
  ここでも、源氏のことを「つらき(薄情な)人」と言っている。しかも「昔より」であり「ここら思ひつめつる」とまで言っているのだ。男の冷淡さをずっと限りなく経験してきたというのだ。つまり源氏との恋は、彼女にとっては決して嬉しいものでも楽しいものでもなかったということだ。あれほど激しい恋をしながら、いつも彼女の心には何か冷たい風が吹いていたとでもいうのだろうか。
  「相手の冷たさ無情さを知りながら」それでも源氏と関係していたということになるが、どうも彼女の心理が理解できない。

  しかしそう思いつつ、源氏が無理にも逢いたいと強要すると、
  『いたく嘆く嘆く、ゐざり出で給へ』
るのである。そういう女の態度を見て源氏は思う。
  「ふふふ、やはりな・・こういう押せば靡く心弱さは昔のままだ。 (林望訳『謹訳源氏物語』祥伝社より)」
  それでも最後の関である襖のカギは堅く閉じて開けようとしない。そこで、源氏は例の神・仏をも和ますような甘い愛の言葉をかけ続ける。すると彼女の心は次第に軟化していき、ついに
  『いま一度の対面はありもすべかりけり』
という心境に変わって行き、襖がすらりと開く。「ありもすべかりけり」が面白い。「もう一度くらい逢っても良いはずなのだ」と、逢う正当性を自分に言い聞かせている。先ほどまでの頑なさはかけらもなくなってしまった。
  こうして、かつて以上の情緒纏綿たる恋が繰り広げられていく。しかも「一方ならず激しく思い乱れて、ただただため息ばかりついて、かつての逢瀬以上に感情を盛り上げていく」というのだ。やがて朝が明けていく。

  こういう彼女の姿を見ながら、源氏は
  『もとよりづしやかなるところは、おはせざりし人』
と評している。「づしやか」とは、「つつしみ深く重々しい」ということである。
  「ふふふ、やはりな・・」という評と「もとよりづしやかなるところは、おはせざりし人」という評は、非常に気になるところである。いずれも女を侮り軽く見ている評である。品のない言葉で言えば「尻軽女」と評していると言っても良い。心から愛している女を評すべき言葉であろうか。愛(恋)というのは、互いに人間としての尊厳を認め合い、その良さを認識するところに成立するのではなかろうか。
  朧月夜に、源氏の「愛の深さ」を疑わせ冷たい風を吹かせたのも、こんな源氏の表面には出ない不遜さが、自ずから彼女に伝わっていたようだ。 

  それはともあれ、朧月夜という女性は、官能的で相手のし甲斐ある女であることは間違いない。だからこそ源氏は魅かれているのだ。
  と同時に、情にももろく、時々で自分の気持ちを翻してしまう人柄であることも確かである。朱雀院の綿綿たる愚痴や愛情吐露に対しても、その場では間違いなく心の底からほだされたのだ。また、この夜も、相手は准太上天皇という立場であることを慮ることもせず、また恋に溺れていっている。その行為が須磨以上の事件に発展しかねないというのに。
  それを慮れない人間としての浅さと、時々の感情に激しく揺すられる起伏の激しい女、それが朧月夜であるようだ。そう解釈すると、冒頭の彼女の思いも嘘ではないとともに、自分の感情を制御できない苛立たしさに身を悶えているという女だったと言えよう。
  「なんと罪深いわが身なのだろう(林望訳より)」という冒頭の嘆きがしみじみ理解できてくる。


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