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源氏物語

衣の裾をひき鳴らす

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「衣の裾をひきならす」考   源氏物語たより680

 源氏物語には「衣の裾をひき(ならす)」という場面が何ケ所かに出て来る。そのうちの『乙女』の巻に出て来る「衣をひきならす」情況が極めて分りにくい。

雲居雁との関係がうまく進展しないことを嘆いた夕霧は、気晴らしにと、帝が舞姫をご覧になる前の予行練習が二条院で行われるというので、見に出かける。舞姫はみなにかしずかれながら、西の対の妻戸の所に屏風を立てて仮の休息所にし、そこに休んでいた。夕霧が、やおらそばに寄って行って覗いてみると、舞姫はものに寄り掛かって臥している。暗いのでよくは分からないものの、彼女の容態は雲居雁に勝ってさえ見える。この舞姫に心が移ったというわけではないが、じっとしていられなくなり
『衣の裾をひきならし給ふに、(舞姫は)何心もなくあやし』
と思ふのであった。
 
  この場面で二つの疑問が出てくる。一つは夕霧は何処にいるのかということ、もう一つはこの衣の裾とは誰の衣かということである。
  先ず前者について考えてみよう。夕霧のいる場所として考えられるのが二つある。一つは廂の間に上がっているということ、もう一つは簀子の下にいるということ。
  彼は、舞姫のそばに寄って屏風の中を覗いているのだから、前者と考えた方が妥当のような気もする。暗い中とはいえ舞姫の容姿まで確認しているわけであるから、遠い所にいたのではこれは不可能である。
  しかし、彼が廂の間に上がることなどできるのだろうか。なぜなら二条院の西の対は、光源氏と紫上の住まいなのである。源氏は、夕霧が紫上に近づかないよう万全の用心をしている。そんなに厳しい警戒をしている西の対の廂に、いくら舞姫の練習のためにごたごたしているとはいえ、夕霧が紫上に遭遇してしまうような危険な状況を源氏が作り出すはずはない。
  そもそも夕霧は、生涯でたった二度しか紫上を見ていないのである。一度目は野分の日に、西の対に野分(嵐)見舞いに行った時に、偶然紫上を垣間見たこと、二度目は、彼女の死顔である。それも紫上の死によって源氏が茫然自失していたから可能だったのである。源氏は自分の経験から、夕霧を紫上に近づけないよう最大の配慮をしていた。それほどに源氏は厳戒態勢を敷いていたのである。夕霧が廂に上がっているなど考えようがない。
  それでは彼は簀子の下、つまり庭に立っていたのだろうか。これもどうも考えにくい状況である。庭から、狭い妻戸の中にいる、しかも屏風で囲われた舞姫が見えるとは到底思えないからである。
  どちらも無理な場面設定と言わなければならい。あるいは当時の風俗習慣が分からない我々の責任なのかもしれない。

  それでは一旦この問題は置いておき、
  「衣の裾をひきならす」
問題に移ろう。
  さて、この衣の裾とは誰のものであろうか、これもまた難しい問題である。しかも「ならす」とは「鳴らす」なのか「馴らす」なのかの問題もある。一応ここでは「鳴らす」と解釈しておくが、岩波書店の「日本古典文学大系」では、こと面倒と見たのであろう、この「ならす」を「馴らす」としてしまっている。つまり「舞姫の衣の裾を引いて自分(夕霧)に馴れる様になさる」と言うのだ。「自分に強引に馴れ親しませる」というのだが、あまりに無理な解釈ではなかろうか。あるいは「自分に関心を向けさせる」という意味なのかもしれないが。

  もし舞姫の衣の裾を引き鳴らしたのだとすれば、彼は廂に上がっていなければならないことになる。しかしこれは先ほどのことから考えても、あり得ない行為と言えよう。それに屏風の中に手を入れて、みなにかしずかれている舞姫の衣を引っ張ることなどできるとは思えない。
  もう一つ考えられるのは夕霧自身の衣の裾ということである。この場合は廂でも簀子の下でも可能である。ただざわざわしている中で簀子の下で衣の裾を鳴らしても、廂にいる舞姫に聞こえるとは思えない。この点の捉え方は諸本によって異なっている。恐らく夕霧が廂に上がることが可能かの問題を考慮したために、それぞればらばらな解釈になってしまったのであろう。
  では彼はどのようにして衣の裾をひきならしたのであろうか。恐らく裾をぴんと引っ張って音を立てたということであろう。夕霧が着ている衣は当然絹であろう。木綿ならごわごわと大きな音を出すかもしれないが、絹では引っ張ったくらいではそんな音がでるとは思えない。この点でも疑問が出て来る。
  いずれにしても舞姫はその音に気付いて
  「あやし」
と思ったという。
  この後、夕霧は彼女に歌を詠み掛けている。それは
  「私はあなたがすっかり気に入ってしまっていて、既にあなたを「私の物」と決めてしまっているということを決して忘れることのないように」
という随分不躾な身勝手な内容である。さすがに彼女は、誰とも分からず変な男が歌を詠み掛けてきたと気味悪く思う。と、ちょうど介添えの人たちがやって来て、周囲がざわついてしまい、事はそのままで終わってしまう。

  それではここで他の場面の「衣の裾をひき(ならす)」を見てみよう。
  『賢木』の巻で、源氏は藤壺宮に突然迫って行って
  『やをら御几帳の内にかかづらひ入りて、御衣の端をひき鳴らし給ふ』
のである。この場合は「音がするか否か」は問題にならない。なぜなら宮の袖の端を直接引っ張ったのだから、音と関係なしに体で感じ取れるからである。
  もう一つは『藤袴』の巻である。ここにも夕霧が登場する。玉鬘に懸想した夕霧は、蘭の花を彼女に手渡そうと、御簾の間からその花をさし入れる。する、不用意に手を出した玉鬘のと
  『御袖をひき動かしたり』
という狼藉をする。これには「ならす」はないのだが、情況は同じようなものである。
 この二つの例はともに、男は女のごく近くにいる。したがって「音」とは関係なしの行為といえる。

  この二つの例から分かってくることは、「衣の裾を引き(ならす)」ためには、男と女の距離があまりあってはならないということである。とすれば、夕霧は、やはり廂の間に上がってしまっているということと考えざるを得ない。もしそうだとすれば、作者は、先の源氏の厳戒態勢を無視して物語を進めたとしか考えられない。
  ただ、「まめ人」という評判をとっている夕霧の人となりも、もう一度考え直さなければかもしれない。というのは、舞姫に不躾で身勝手な歌を詠み掛けたり、『藤袴』の巻で玉鬘へ狼藉をしたりするのを見ると、「まめ人」の評判も、随分疑わしいということになる。やはり彼は源氏の血を引いているのかもしれない。とすれば、予行演習のどさくさに紛れて、彼は廂の間にちゃっかり上り込んでいたと取ってもよくなってきそうである。
  文章が堂々巡りをしてしまって、明確な結論も出せないままで終わってしまったが、それも読者を悩まし疲れさせる夕霧(作者)のせいにしておこう。



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