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源氏物語

明石君のもとに泊まる  源氏物語たより689

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     明石君のもとに泊まる   源氏物語たより689

  光源氏の、元旦の日の女性方訪問の最後は、明石君のところであった。そしてここに泊まってしまう。
  『暮れ方になるほどに・・』
渡って行ったということは、あるいは最初からここに泊まろうという計算があったのかもしれない。
  『新しき年の御騒がれ』
が気がかりではある。今日は新しい年のしかも目出度い最初の日なのだから、当然、正妻格である紫上のところで睦まじい一夜を過ごすのが筋であるのに、他の女性の所に泊まったりすれば
  「北の方を差し置いてなんたること・・」
と、特に紫上お付きの女房たちが大騒ぎするのは目に見えている。それを承知でこういう結果になってしまったのはなぜなのだろうか。

  一つには、明石君が魅力的な女性であるということが上げられる。彼女の部屋に入った途端に、「なまめかし」い風が吹いて来るし香も好ましく漂い、他とは違って「けだかい」雰囲気に溢れている。部屋には草子が取り散らされ、座布団の上には趣味のいい琴が置かれている。また、手習いをしていたのであろうその書体も、他の女性方とは違って、いかにも趣深く書き澄ましている。明石姫君からの返歌に対する感想(歌)もその中に書かれている。
  女性の教養の代表である「琴」と「書」と「歌」とが、部屋の中に一目される。これだけでも十分に源氏を感心させ満足させる要件になる。

  源氏の御入来に気付いて部屋に戻ってきた明石君の応対が、また感じがいい。一歩引いてかしこまった態度は、
  『なほ、人よりは殊(こと)なり』
  (やっぱり他の女性方とは違って特別である)
と感心させられる。
  さらに、くっきりとした黒髪が、紅梅襲(表が白、裏が濃い赤)の小袿にさらりと掛かっていて、まことに優艶で人の心を惹き付ける。
 
  とにかく明石君というと、いつも何事もべた褒めなのである。それにはしかるべきわけがある。太政大臣の妻ともあろう者が、一介の受領の娘であってはならないからだ。まして二人の間に生まれた明石姫君は、将来の「后がね(候補)」なのである。その母たるものは、教養に溢れ気高く美貌でなくてはならないという宿命を負っている。褒めざるを得ないのである。

  しかし、そう言ってしまっては身も蓋もない。太政大臣の妻であるとかその娘が「后がね」であるとかは公のことである。それに対して、元日の夜、何処に泊まるかは私的なことである。明石君のところに泊まったということは、彼女自身の魅力からに他ならない。源氏とすれば毎夜でも泊まりたいところであろうが、紫上への遠慮があるからそうもいかない。
 
  二つ目の理由は、先に尋ねた明石姫君の部屋で見た、明石君の手紙にある。その手紙にはこんな歌が添えられていた。
 『年月をまつにひかれてふる人に 今日鶯の初音聞かせよ』
  「長い年月、あなたに逢いたいと思って、待つことにひたすらになっていたあまりに、すっかり歳老いてしまったこの私に、新しい年の今日こそ、あなたの音信だけでもいいから聞かせてほしいものです」
という必死の思いを詠った歌である。
  姫君三歳の時に、源氏に引き裂かれて以来、別れ別れになったまま既に五年も経っている。その間一度も娘の姿を見ていないばかりか、便りさえもらっていないのである。彼女の「せいぜい初音(音信)だけでも手にしたい」という思いは誠に切実で、傍観者でさえ涙をそそられる悲劇と言っていい。
  その手紙を見た源氏はさすがにハッとする。そして
  『(明石君が)いままでおぼつかなき年月の隔たりけるも、罪得がましく、心苦し』
と自責の念に駆られるのである。五年間もの長い年月、娘のことを気に掛けながら過ごさせてしまったことに、「これでは罪を得ても仕方がない」と気づいたのだ。この間、源氏は、姫君の愛らしさを紫上と二人で独占してきた。その実の母のいることに思いを馳せることもなく。
 
  しかも、明石君は、源氏が来るまでに書き散らしていた手習いの中に、姫君からきた手紙に対してこんなことまですさび書いていた。
  『めづらしや 花のねぐらに木伝ひて谷の古巣を訪へる鶯』
  (ああ、なんと珍しいことでしょう。華やかな紫上さまの所に住んでいて、この度は木伝いにこんな谷間のような日の当たらない所に住んでいる古巣(産みの母)を忘れないで鶯は訪ねて来てくれたとは)
  そして、それに加えて
  『咲ける岡辺に家しあれば』
という引き歌も書き添えられていた。本の歌は
  『梅の花咲ける岡辺に家しあれば ともしくもあらず鶯の声』
で、意味は「梅の花が咲く岡近くに住んでいますからね、鶯の声を聞くチャンスも少なくはありません」ということで、姫の手紙が「珍しい」と感動したその裏で
  「でもね、我が家の周囲では鶯がいっぱい鳴きますからね、別に寂しくもありませんが・・」
と自嘲的に強がって見せたのである。
  これを見たのでは源氏としては放っておけない。このままでは本当に罪を得てしまう。女房たちの非難や紫上の嫉妬をも省みずに、明石君のところに泊まらざるを得なかったのである

  さて、「新しき年の御騒がれ」は、奇妙な形で現れることになった。源氏は紫上を憚って、明石君が驚き残念がるほど朝早くに春の邸に帰って行く。そこで、彼の例の嘘八百が吐かれる。
  「いや、おかしなことにうたた寝をしてしまいましてね。とんだ若気の至りの寝坊助というものです。それに誰も起こしてくれなかったものですから・・」
  見え見えの嘘に呆れて、紫上は返事もしない。源氏はこと面倒と見て「空寝」をしてしまう。そればかりか、紫上と顔を合わせるのもばつが悪いのだろう、その朝は
   『日高く、大殿籠り起きたり』
とういう散々の朝を過ごすのである。
  この夫婦喧嘩は何ともあどけない。これが三十六歳の・太政大臣とその妻との喧嘩かと思うと笑えてくる。
  正月二日は、大勢の臨時客の応接で源氏も忙しい。
  それにしても、大勢の客たちの中に、源氏に「なずらふ(似ている)」者はいないかと見回すが、源氏の美貌、貫録に匹敵するような客は一人もいない、と書き添えるとは。あのあどけない夫婦喧嘩などは何処かに置き忘れてしまって、なんともとぼけた皮肉な源氏評ではないか。

  こんなことがあって、紫上の明石君に対する嫉視はなかなか消えない。二人が互いを理解するようになるのは、姫君が春宮に入内するまで待たなければならない。
  入内を前にして二人はようやく親しく話し合う機会を持つ。が、紫上は、明石君の人となりが、「大層気高く、女の盛りである」ことに感心するとともに
  『(源氏が明石君を寵愛するのも)むべこそはと、めざましう見』
るしかないのである。「めざまし」とは、やっかみを含んだ称賛で、「悔しいけどやっぱり素晴らしい(女性)」なので、源氏さまが寵愛するのも仕方ないわと自分を納得させるのである。彼女にはまだしこりが残ってはいるのだろうが、それでも談話の後には、
  『かたみにめでたし(互いに立派な女性である)』
と思い交わす。
  以後、晴れて明石君は、明石女御(姫君)に女房のような形で付き添うことが出来るようになる。一別以来、八年の歳月を要して、彼女に本当の春が訪れる。

 


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