源氏物語

源氏物語小さなたより4

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  紫上の出家を許さなかったわけ 源氏物語小さなたより4

 光源氏が、紫上の再三の出家願望を決して許そうとしなかったのはなぜなのだろうか。


 瀬戸内寂聴は、いつか「それはセックスができなくなるからよ」と言っていたが、私は「そんな馬鹿な!」と思って聞いていた。源氏にとっては、セックスをしようと思えば、相手はいくらでもいる。源氏お付きの女房・中務君や中将君など、より取り見取りだ。夕顔の女房だった右近を召して、源氏が足をもませていた時に、「若い者(女房)は、私の足をもむことなど嫌がるから」と冗談を言う場面がある。すると女房たちは「誰が源氏さまのお召しを嫌がるものですか」と言う。つまり源氏の相手をしたい女はいくらでもいたということである。

 確かに出家ということは重大なことであったらしく、いったん出家してしまったら、絶対に男を近づけない、女を近づけないということである。男を近づけないがために出家することもよくあった。源氏の執拗な求愛から、わが身と源氏との不義の子・冷泉(帝)を守るために、藤壺宮は出家しているし、義理の子の紀伊守の「景色だつ」様子に嫌気がさした空蝉も、それから逃れるために出家している。また、浮舟も、薫と匂宮の板挟みになって、死を選択し、やがては出家していく。
 出家してしまえば、たとえ自分の妻であっても、御簾の中を覗くのさえ、はばかれたのではなかろうか。ただ、源氏は、出家した女三宮の几帳を引きやって、彼女を 
 『うつくしき子供の心地して、なまめかしう、をかしげなり』
と未練たらしく見ているから、近くには寄れたのであろう。しかしそれ以上の行為は御法度で、あえて犯せば、五戒のうちの“邪淫”の罪に当たり、まして尼を犯すことは、いわば“女犯”のようなもので、とても許されないことであった。

 それに、源氏は、紫上が出家を願い出た頃は、46,7歳である。今なら60歳半ばだ。その頃のセックス願望は、私自身の経験からしても、それほど執着しなくなっている。少なくともセックスが人生の優先事ではない。

 本文の中では、源氏が紫上の出家を許さないのは、
 「私も出家の本意があるのだが、そうしないのは、あなたのためだ。私がいなくなった時にあなたがいかに悲しい思いをするか。同じようにあなたが出家してしまったら、私がどんなにさびしい思いをするか、それを考えなさい」
と理屈にもならない屁理屈を言っている。

 源氏が、紫上の出家を許さなかったのは、男女の問題を離れたもので、理想的で完璧な女性に育てた紫上が、自分の近くから遠ざかることは、とても耐えられないことだったのだ。彼女をいつまでも手元において、彼独特の自己中心的な長広舌で、人生論を芸術論を女性論を、語りたかったのだ。どんなに煙たがられようとも、どんなに紫上に手厳しく背かれようとも。
 その意味では間違いなく源氏は紫上をこよなく愛していた。
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