源氏物語

源氏物語小さなたより5

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  紫式部の筆力  源氏物語小さなたより5

 良きにつけ悪しきにつけ、圧倒的な存在感をもって読む者を翻弄し続けてきた光源氏が、『幻』の巻をもって姿を消してしまって以後は、冷めたスープを飲むような感じで、もう一つ感興を催させないと思っていた『宇治十帖』であるが、丁寧に読んでいくうちに、”凄い”、やはり『宇治十帖』も紫式部の筆をおいてないな、余人をもって替えることはできないなと思わせるのだ。


 薫と匂宮との浮舟を巡っての虚々実々のバトル。誠実真摯な薫と奔放官能的な匂宮との間に挟まれた浮舟が、悩みぬいた末に宇治川に投身していかざるを得ない宿命。そしてその魂を救っていく横川の僧都の変幻自在の思考。それらが無理なくここに描き尽くされている。
 中でも『手習』の巻は感動的で、浮舟が剃髪する場面では思わず涙がにじんできてしまう。読者を作品の中に完全に引き込んでしまう筆力は並大抵なものではない。
 この『手習』の巻に登場する二人の人物のキャラクターが魅力的だ。
 一人は横川の僧都。彼は『往生要集』の著者・恵心僧都源信がモデルだといわれている。初瀬参りの帰りに宇治で病気になった母・大尼君のために、山籠もり中であったにもかかわらず山を下りてきて、病気平癒の加持祈祷をするかと思えば、精神的に病んでいた浮舟のために再び山を下りてきて加持祈祷したりする。浮舟は彼にとっては、無縁の人である。にもかかわらず、悩める者のためにはあえて修行中の山を下りる、そんな融通無碍の人柄が面白い。これについては再び項を設けるつもりでいる。
 そして、もう一人が、僧都の母・大尼君である。御歳80歳、今で言えば優に100歳を超える。比叡の麓、小野に住んでいる僧都の妹尼君のところに娘婿であった中将が訪ねてきた。妹尼君や中将が、月の美しいのに誘われて、琴と笛を合奏していると、この老婆が部屋からのこのこ出てきて、「自分にも琴を弾かせろ、昔は大層うまかったのだ」と言って、今はもう弾く人もなくなってしまった和琴を、耳も『ほのぼのしい』のに、『心をやりて(得意になって)』弾きだす。息子の僧都には「和琴など聞き苦しい。念仏以外のことはするな」と日頃厳しく諌められているというのに
 『たけふち、ちりちり、たりたな(この意味不明)」
と歌いながら、弾く。妹尼君など周囲の者は『かたはらいたし(聞き苦しい)』と思っているのに平然と弾いている。
このような人物を点景に入れることができるのが紫式部である。
 この後、亡くなった自分の娘の形見と思って浮舟を真実世話をする妹尼君が、初瀬に出かけた留守を狙って、三たび山から下りてきた横川の僧都に、浮舟は剃髪を懇願する。僧都は、これ程に固い決意をしている者を出家させないのもと、妹尼君の思いを無視して
 『流転三界中(恩愛の世界を出て、無為(出家剃髪)の世界に入る時の偈』
と偈を唱えながら、まだ若々しい浮舟の髪を切る。
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